適時調査で「掲示事項」がどこまで見られているか
適時調査は、施設基準の届出が事実通りに運用されているかを地方厚生(支)局が立入で確認する調査です。事前に書類審査と院内ラウンドが行われ、掲示物・帳票・スタッフ配置・設備の現物が見られます。
掲示事項に関する原文(東海北陸厚生局・令和6年度)
東海北陸厚生局の「令和6年度に実施した施設基準等に係る適時調査において保険医療機関に改善を求めた主な指摘事項」(PDF)p.1「I 一般事項 / 2 掲示事項」では、以下の7項目の改善要求が並んでいます。
- (1) 保険医療機関である旨の標示
- (2) 入院基本料に関する事項
- (3) 施設基準等に関する事項(届出と掲示の不一致がここで指摘)
- (4) 入院時食事療養に関する事項
- (5) 保険外併用療養費に関する事項
- (6) 保険外負担に関する事項
- (7) 明細書発行に関する事項
(3) の原文では「届出された施設基準について、名称が誤っている例、一部掲示されていない例又は 届出をしていない事項を掲示している例 が見受けられたので 届出のとおりに全て掲示すること」とまで書かれています。「全部掲示する」「名称を間違えない」「届けていない事項は掲示しない」という3点が改善要求の核です。
参考:本記事は東海北陸厚生局の公表資料を主出典としていますが、近畿厚生局・関東信越厚生局なども同様の「個別指導・適時調査で指摘する機会が多い事項」を公開しており、内容のトーンは概ね共通しています。
加算ごとの「掲示が要件」になっている指摘
同PDFでは、加算ごとの掲示不備も列挙されています(p.7〜p.10)。
いずれも「掲示そのものが施設基準の一部」になっている加算で、掲示物が外れていれば届出はあっても要件不備として指摘されます。
2026年6月改定で掲示の差替えが必要な加算
改定で掲示を差し替える必要が出てくるのは、概ね以下の3グループです。
グループ1:名称が変わる加算(医療DX関連)
2026年6月改定で 「医療DX推進体制整備加算」と「医療情報取得加算」は廃止 され、初診料・再診料・入院料加算として 「電子的診療情報連携体制整備加算」 が新設されます。個別改定項目 P.494「Ⅲ-3 ① 医療DX推進体制整備加算等の見直し」に「医療情報取得加算及び医療DX推進体制整備加算を廃止し、…電子的診療情報連携体制整備加算を新設する」と原文で明記されています。
点数は、複数の解説で 初診時は加算1=15点/加算2=9点/加算3=4点(いずれも月1回)、再診時は一律2点(月1回) との点数構成が説明されています(個別改定項目 PDF P.495 A001再診料 注19・P.496 A002外来診療料 注10 で「月に1回に限り●●点を所定点数に加算する」と原文確認、点数値は告示確定後)。再診時加算は再診料(A001、許可病床数200床未満の病院または診療所)と外来診療料(A002、200床以上の病院)の 両方で算定可能 です。
掲示物の中身は、加算名称を新名称に差し替えるだけでなく、新たに以下の表記が必要です。
- 当該ネットワーク(電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス)に参加していること
- 実際に患者情報を共有している連携先医療機関の名称
令和8年4月21日付け事務連絡「疑義解釈資料の送付について(その4)」の別添1(医-1〜医-2、問1〜問4)で要件の細部が確認できます。同事務連絡には、初診と同一月の再診や他疾患初診で加算をダブらせて算定することは不可(問4)といった算定ルールも整理されています。
なお、施設基準(ヘ)に「システム・医療DX推進に関する事項を院内の見える場所に掲示」、(ト)に「原則、当該項目をウェブサイトに掲載」とそれぞれ規定されており、院内掲示とWeb掲載の二重対応 が前提になっています。
グループ2:再届出が必要な加算(ベースアップ評価料)
ベースアップ評価料は、現に算定中の医療機関でも 2026年6月1日までに改めて施設基準を届け出る必要 があります。点数構造・対象職員の範囲・賃金改善計画書の様式が改定で見直されたためで、改定前の届出はそのままは引き継がれません。
届出先は地方厚生(支)局で、賃金改善計画書(様式95〜97)と関連様式をExcelで提出します。掲示物の側では「対象職員に賃金改善実施方法等を周知する」体制が施設基準として求められるため、休憩室への掲示や書面配布など、院内(職員向け)の周知 を更新します。
再届出のスケジュールや様式の詳細は

ベースアップ評価料とは?2026年6月改定後の点数・施設基準・院内掲示をわかりやすく解説
ベースアップ評価料は2026年6月改定で点数が最大3倍に拡充。現に算定中の医療機関も6/1までの再届出が必要です。点数表・施設基準・院内掲示のポイントを事務長向けに整理。
で扱っています。
グループ3:選定療養に項目が追加される医療機関・薬局
2026年6月から 時間外調剤・長期収載品・近視進行抑制薬 などが選定療養に追加されます。該当する医療機関・薬局は、保険外併用療養費の掲示や保険外負担の一覧に項目を 新たに加える 必要があります。東海北陸厚生局の指摘事項PDFでも、(5)「保険外併用療養費」では「特別療養環境室の部屋の病床数及び場所(部屋番号)が掲示されていない」、(6)「保険外負担」では「一部掲示されていないもの又は徴収する金額の記載がないもの」が指摘されており、追加項目の漏れは即指摘の対象 になります。

よくある「届出と掲示の不一致」5パターン
ここからは事務スタッフが現場でぶつかりがちな具体的な不一致パターンを5つ整理します。いずれも東海北陸厚生局のPDFでの指摘類型に当てはまるものです。
パターン1:旧加算名のまま掲示している
医療DX推進体制整備加算 → 電子的診療情報連携体制整備加算のように 加算名そのものが変わるケース。届出は新名称で出したのに、待合室の掲示物は印刷し直さないまま「医療DX推進体制整備加算 算定医療機関」と表示している、というずれが起きやすいパターンです。
パターン2:届出していない事項を掲示している
「以前は届け出ていた加算が要件を満たさなくなり外したが、掲示はそのまま残っていた」「テンプレートをコピーして掲示物を作ったが、自院では届け出ていない加算まで含まれていた」というケース。届出の取り下げや要件未充足の加算が掲示に残っていると、東海北陸厚生局の指摘原文どおりの「届出をしていない事項を掲示している例」 に該当します。
パターン3:掲示はしているが、Webサイトに載っていない
2025年5月末(令和7年5月31日) で原則化された「掲示事項のウェブサイト掲載」の経過措置はすでに終了しており(療担規則第二条の六に基づく経過措置が令和7年5月31日で終了済み・保医発0327第10号)、自ら管理するホームページを有する医療機関はWeb掲載が完全義務化 されています(保団連「【社保情報】要確認!院内掲示事項 6月以降はウェブサイト掲示も必須」)。院内には掲示があるのに、自院ホームページの「院内掲示事項」ページが古いままという状態は、定番の指摘ルートに乗ります。
Web掲載が必須となる代表項目は、保険医療機関である旨/入院基本料/厚生局へ届け出た全事項/明細書発行状況/保険外負担/初診・再診加算/医療DX関連加算/在宅診療関連加算 などです。「届け出た全事項」が含まれているため、施設基準を1つ追加すれば自動的にWeb側も更新が必要になります。
パターン4:保険外併用療養費・保険外負担の掲示漏れ
特別療養環境室(差額ベッド)の 病床数・場所(部屋番号)が掲示されていない、保険外負担の 金額の記載がない・項目が一部漏れている といった指摘が、東海北陸厚生局PDFの p.1(5)(6)と p.2「4 保険外負担」で重ねて挙がっています。
2026年6月改定で選定療養に時間外調剤・長期収載品・近視進行抑制薬が加わるため、該当医療機関・薬局は 新たに掲載項目が増える ことを前提に運用フローを見直す必要があります。
パターン5:明細書発行の掲示が古い様式のまま
明細書発行に関する掲示は、令和6年3月5日付け保発0305第11号「医療費の内容の分かる領収証及び個別の診療報酬の算定項目の分かる明細書の発行について」の 別紙様式7の例を参考にして内容を改める よう、東海北陸厚生局PDFで明記されています。古い参考様式のまま使い続けていると、参考様式の記載と内容が違うとして改善を求められます。