2026年6月1日改正の要点 — 何が・どう変わるのか
価格差負担割合:4分の1 → 2分の1
改正の中心は、選定療養として患者から徴収する「特別の料金」の計算式です。長期収載品と後発医薬品の薬価差のうち、特別の料金として徴収する割合(価格差に乗じる係数)が 4分の1から2分の1へ引き上げ られます。
| 項目 | 〜2026/5/31 | 2026/6/1〜 |
|---|
| 特別の料金の算定割合(価格差に乗じる係数) | 4分の1 | 2分の1 |
| 計算例(先発100円・後発60円の場合) | 差額40円 × 1/4 = 10円 | 差額40円 × 1/2 = 20円 |
| 患者の体感負担 | 基準 | 約2倍 |
実際には算出した金額をいったん薬剤料の点数に換算し(10円単位での丸め)、消費税相当を加えて徴収するため、計算結果が「ぴったり半額」「ぴったり2倍」とは限りません。窓口では「先発との差額の半分相当が目安です」と幅を持たせた説明にしておくと、後で食い違いが出にくくなります。
施行日は2026/6/1。4/1 はリスト差し替えのみ
ここが今回の改正で最もまぎらわしい点です。
- 2026年4月1日:薬価改定に伴う対象品目リスト差し替え(料率は 4分の1のまま)
- 2026年6月1日:料率引き上げ(4分の1 → 2分の1)
つまり、4月にリストが変わって対象品目の入れ替えが起こり、6月に料率が変わるという二段構えのスケジュールです。Web 掲示の更新タイミングを「4月」と勘違いしてしまうと、6月以降の料率変更に追いつきません。
改正の根拠は、令和8年3月27日付の厚生労働大臣告示と保医発通知 で公布されました。中心となる通知番号は次の3点です。
- 保医発0327第6号(告示第107号等の実施上の留意事項一部改正)
- 保医発0327第9号(長期収載品の処方等又は調剤の取扱い一部改正)
- 保医発0327第2号(診療報酬請求書等の記載要領一部改正)
制度の枠組み・対象外要件は変更なし
引き上げは料率のみで、対象品目の選定基準・対象外要件・入院患者の取扱いといった制度の枠組みは2024年10月の制度開始時から変わっていません。「医療上の必要性で対象外」「在庫困難で対象外」「入院中は対象外」といった軸はそのまま使えます。

対象品目・対象外ケースの整理
対象となる長期収載品の3要件
選定療養の対象となるのは、後発医薬品があり、かつ次のいずれかに該当する先発医薬品です。
- 後発医薬品の上市後 5年以上 が経過している(後発品への置換率1%未満は除く)
- 上市後5年未満であっても、後発医薬品への置換率が 50% に達しているもの
- 長期収載品の薬価が、後発医薬品の最も高い薬価を超えていること
患者さんから「なぜこの薬は対象でこの薬は対象外なのか」と聞かれたときの根拠になります。具体的にどの薬が対象になるかは、厚生労働省が公表する「対象医薬品リスト」で都度確認します。
4/1 適用版と 6/1 適用版の2世代運用
対象医薬品リストは、料率改正に合わせて2世代が並行公表されています。
| 適用期間 | 公表日 | リストの位置づけ |
|---|
| 2026年4月1日〜5月31日 | 令和8年3月5日事務連絡 | 薬価改定に伴う品目差し替え。新規追加・除外を経て775品目(公表時点) |
| 2026年6月1日〜 | 令和8年3月31日事務連絡 | 料率引き上げ(2分の1)に対応した最新版 |
リンクを Web 掲示や窓口資料に貼る場合は、「最新の対象医薬品リスト(厚生労働省)」と書いて常に最新版に飛ばす運用 がおすすめです。具体的な品目をベタ書きするとリスト改訂のたびに掲示物の差し替えが発生してしまいます。
対象外となる4類型 — 医療上の必要性
医師(または歯科医師)が医療上の必要性があると判断した場合は対象外で、特別の料金は徴収しません。判断基準は厚生労働省広報誌の Q&A で次の4類型に整理されています。
- 効能・効果に差異がある場合:先発と後発で薬事承認内容が異なる
- 治療効果に差異がある場合:副作用・相互作用などの懸念がある
- 学会の治療ガイドラインで後発への切り替えが推奨されていない場合
- 後発医薬品の剤形上の違いで処方等を行う医療上の必要がある場合:飲みにくい・一包化ができないなど
処方箋の「変更不可(医療上必要)」欄にチェックがあるケースや、備考欄に医療上の必要性が明記されているケースは対象外として扱う運用になります。
在庫困難・入院患者は対象外
加えて、次の場合も対象外です。
- 後発医薬品の在庫が困難な場合:医療機関や薬局で物理的に提供できない、流通上の問題で確保できない
- 入院患者:入院期間中の処方は院外処方であっても対象外
「在庫困難」の解釈は疑義解釈(その1〜その4)で深掘りされていますので、判断に迷うケースは厚生局や薬剤師会に相談しながら運用方針を整えましょう。
Web 掲示・院内掲示で必須となる記載項目
掲示義務の根拠 — 告示第107号 第三の十四(三)
院内掲示の根拠は 保険医療機関及び保険医療養担当規則 第2条の6(保険薬局は薬担規則の同等規定)です。具体的に何を掲示するかは、次の告示で個別に列挙されています。
療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等
(平成18年厚生労働省告示第107号)第三の十四(三)
ここには概ね次の主旨が記載されています:「後発医薬品のある先発医薬品の処方等又は調剤に係る費用徴収その他必要な事項を当該保険医療機関及び当該保険薬局内の見やすい場所に掲示しなければならない」。料率改定があっても、掲示の義務そのものは変わりません。表記内容を最新化する義務が施設側に発生します。
Web 掲示は2025年6月から完全義務化済み
院内掲示事項のウェブサイト掲載は、2025年6月1日から経過措置が終了して完全義務化 されています。対象は「自ら管理するホームページを有する保険医療機関・保険薬局」。長期収載品の選定療養もこの掲載対象に含まれます。
つまり、6/1 の料率変更に合わせて Web 掲示の「4分の1」表記を「2分の1」に書き換える作業は、院内掲示と Web 掲示の両方で発生 します。Web 側だけ古いまま放置されるパターンは、院内掲示と内容が食い違うため一番リスクが高い状態です。
掲示すべき要素チェックリスト
長期収載品の選定療養について、掲示物に最低限盛り込みたい要素を一覧化しました。
「2分の1」という料率と、「対象外ケースがある」という事実をセットで掲示するのがポイントです。料率だけ書くと、対象外まで含めて全員に追加負担が発生するかのような誤解を招きます。

そのまま使える Web 掲示文例
以下は厚生労働省 Q&A・通知の用語に合わせた文例です。施設名・連絡先を差し替えてご利用ください。料率は必ず「2分の1」を確認してから掲載してください。
病院・診療所向け(院内処方)
【長期収載品の選定療養について】
2024年10月から、後発医薬品(ジェネリック医薬品)がある先発医薬品(長期収載品)を、医療上の必要性なく患者さんのご希望で処方等する場合、保険給付分とは別に「特別の料金」をいただく制度が始まっています。
2026年6月1日からは、特別の料金の計算における負担割合が「先発と後発の価格差の4分の1」から「2分の1」へ引き上げられました。
■ 対象品目
厚生労働省が公表する「対象医薬品リスト」に掲載されている長期収載品が対象です。最新のリストは厚生労働省ホームページでご確認ください。
■ 対象外となる場合
・医師が医療上の必要性があると判断した場合
・当院で後発医薬品の在庫が困難な場合
・入院期間中の処方
これらの場合は、特別の料金はいただきません。
■ 特別の料金
長期収載品と後発医薬品との価格差の2分の1相当額(消費税込)を、通常の保険負担とは別にお支払いいただきます。
ご不明な点は当院までお問い合わせください。
保険薬局向け
【長期収載品の選定療養について】
後発医薬品(ジェネリック医薬品)がある先発医薬品(長期収載品)を、医療上の必要性なく患者さんのご希望でお選びいただいた場合、保険給付分とは別に「特別の料金」をいただきます。
2026年6月1日から、特別の料金の計算は、長期収載品と後発医薬品の「価格差の2分の1」を基準とする取扱いに変更されました(旧:価格差の4分の1)。
■ 対象品目
厚生労働省公表の対象医薬品リスト掲載品。最新のリストは厚生労働省ホームページでご確認ください。
■ 対象外となる場合
・医師が処方箋で医療上の必要性を示した場合(変更不可欄のチェック等)
・当薬局で後発医薬品の在庫が困難な場合
・入院期間中の調剤
■ 特別の料金
価格差の2分の1相当額(消費税込)を、通常の患者負担とは別にいただきます。
詳細は薬剤師までお気軽にお尋ねください。
よくある間違いと言い回しの注意点
文例を作る際に避けたい表現を整理しました。
窓口で使える患者説明スクリプト
基本パターン:患者から「なぜ負担が増えたのか」と聞かれたとき
「2026年の6月から、ジェネリック医薬品があるのにあえて先発のお薬をご希望される場合の追加料金の計算が変わりました。先発とジェネリックの価格差の半分ほどを、保険のお支払いとは別にいただく形になります。
ジェネリックでも問題ない場合はそちらをお勧めしますが、お薬の効き方や副作用などで医師が必要と判断した場合は、これまで通り追加料金はかかりません。
今回処方されているお薬についてはこちら(説明書)をご覧ください。」
「医療上の必要性があるからジェネリックは使えないと言われた」ケース
「その場合は今回の追加料金の対象外ですので、これまでと同じ負担額でお出しできます。処方箋に医師の判断が記載されています。
もし主治医のご判断について詳しく確認されたい場合は、次回の受診時に医師にお伝えください。」
「在庫がないと言われた、なぜ自分が損をするのか」ケース
「ジェネリックの在庫が一時的に確保できないなど、薬局や医療機関の事情でお出しできない場合は、追加料金の対象外です。先発のお薬を、これまでと同じ負担額でお渡しできます。」
入院中の患者の場合
「入院期間中は、院内のお薬・院外で受け取られたお薬とも、この追加料金の対象外です。退院後の処方から通常の取り扱いに戻ります。」
説明スクリプト共通の注意
- 「ジェネリック使用の強制」と誤解されないよう、患者の選択権が前提 であることを明示
- 「価格差の2分の1」は数式の話で、患者が支払う実額は処方内容で変わるので、実額は処方箋/請求書をベースに 説明
- 個別の負担額計算をその場で行うときは、丸め処理と消費税の扱いがあるため、「目安」「概算」と前置き する
- 法的・経営的な踏み込んだ判断(特別な徴収運用の可否など)は、必ず厚生局や薬剤師会に確認する

6/1 までに最低限やる3つのこと
施行直前の事務側のやることを3つに絞りました。
1. Web 掲示・院内掲示の文言を「2分の1」に統一する
旧版「4分の1」のまま運用している施設は、院内掲示・Web 掲示・窓口チラシ・ポスター・問診票案内など、関連するすべての掲示物を一斉に更新します。院内と Web で表記が違うのが最もリスクが高い ので、両方を同時に切り替える運用にしましょう。
差し替えタイミングは6/1 0時を目安に。事前に印刷物を準備しておき、6/1 朝の開所前に貼り替えます。Web 側は予約投稿・予約公開を活用してください。
2. 対象医薬品リストを「最新版へのリンク」で運用する
対象品目を掲示物にベタ書きすると、リスト改訂のたびに差し替え作業が発生します。「最新の対象医薬品リスト(厚生労働省)」というリンクで対応する運用が、長期的には事務負担を最小化します。
院内掲示物には QR コードを付けて、患者さんがスマホで最新リストを確認できるようにする方法も有効です。
3. 窓口スタッフへの説明研修・FAQ シートを更新する
文例どおりに掲示物を更新しても、窓口で口頭説明できなければ意味がありません。患者からの典型的な質問パターン(「なぜ増えたの?」「医師が必要と言ったのに?」「在庫がないのに損なの?」)に対して、本記事の説明スクリプトを参考に 施設独自の FAQ シートを作って共有 しておくと、新人スタッフも安心して対応できます。
特に、6/1 直後は「先月までと負担額が違う」というクレームが集中しやすいタイミングです。6月最初の1週間は、いつもより少し丁寧めな説明を意識して、患者さんの納得感を作っていきましょう。
掲示義務のWeb対応についてお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
参考資料