2026年度改定の経過措置とは ― 全体像と期限の分布
経過措置は64項目に設定されている
厚生労働省保険局医療課が公開した「令和8年度診療報酬改定の概要 16.経過措置」(PDF・全13ページ)には、64項目の経過措置が掲載されています。期限は単一ではなく、項目ごとに以下のように分散しています。
| 期限 | 主な対象 |
|---|
| 令和8年9月30日 | 訪問看護医療情報連携加算のWebサイト掲載基準、外来腫瘍化学療法診療料1の急変対応指針整備 など |
| 令和8年12月31日 | 特定集中治療室等のSOFAスコア・救急搬送件数 など |
| 令和9年3月31日 | 重症度・看護必要度の旧基準、生活習慣病管理料(Ⅰ)(Ⅱ)の充実管理加算 など |
| 令和9年5月31日 | 機能強化加算BCP・在支診/在支病BCP・急性期総合体制加算・腎代替療法診療体制充実加算 など |
| 令和10年5月31日 | 初診料注1の電子処方箋システム保有要件、データ提出加算 など |
| 当分の間 | 地域包括医療病棟入院料・特定入院料の通則等 |
期限が複数に分かれているため、自院に関係する項目を 期限ごとにマッピングする ことが第一歩になります。
「経過措置あり/なし」の見極めが優先順位を決める
経過措置のない項目は、6月1日からの算定に向けて 5月までに体制を整える必要があります。一方、経過措置がある項目は 2027年春までに段階的に整備すればよい ため、4〜6月の繁忙期にまとめて手をつけずに済みます。
一覧管理の早見表は、厚労省の経過措置PDF(001685522.pdf)が最も網羅的です。最新の告示・通知や「施設基準届出チェックリスト」と必ず突き合わせてください。

機能強化加算のBCP要件 ― 2027年5月31日までにやるべきこと
新設された施設基準(6)の中身
機能強化加算(80点・初診料に加算)の施設基準には、2026年改定で次の文言が追加されました(保医発0305第7号 別添2 第1の3 機能強化加算 1の(6))。
医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き等を参考に、医療機関の実情に応じて、災害等の発生時において、当該保険医療機関において患者に対する医療の提供を継続的に実施することを目指すこと、非常時の体制で早期の業務再開を図ること及び患者と職員の安全を確保すること等を目的とした計画(業務継続計画)を策定し、当該計画に従い必要な措置を講じること。また、定期的に業務継続計画の見直しを行い、必要に応じて業務継続計画の変更を行うこと
経過措置は、令和8年3月31日において現に機能強化加算の届出を行っている保険医療機関について、令和9年(2027年)5月31日までの間に限り、業務継続計画に係る要件に該当するものとみなす と定められています。新規に機能強化加算を届け出る場合は経過措置の対象外で、届出時点でBCP策定済みである必要がある点に注意してください。
なお、2026年改定では同じ機能強化加算の施設基準改正で、地域外来医療を確保する必要がある区域として都道府県知事が指定した区域内において、健康保険法第68条の2第1項の規定により3年以内の期限が付された指定を受けた診療所 は、機能強化加算・地域包括診療加算・地域包括診療料・小児かかりつけ診療料・在宅療養支援診療所の届出ができないという除外規定も追加されています。BCP対応とは別軸ですが、新規開業の診療所では論点になります。
参照すべき手引きは「災害拠点病院以外」版
機能強化加算が参照するのは、厚生労働科学研究費補助金(平成29年度)で作成された「医療機関(災害拠点病院以外)における災害対応のためのBCP作成の手引き」(000955005.pdf)です。指針・チェックリストもセットで公開されています。
手引きが示すBCPの共通項目は次の3層構造です。
- 基本方針 — 対象災害(大地震・津波・洪水・土砂災害・火山噴火など)、被害想定、失われる診療機能の想定、地域での役割、被災時に求める診療体制
- 事前準備 — 災害対応組織体制、本部機能、優先業務設定、診療情報維持体制、外部機関との連絡体制、スタッフ教育・訓練、避難計画、受援計画、遺体・遺族対応、BCP維持管理体制
- 発災直後の業務遂行計画 — スタッフへの「アクションカード」準備が望ましい
診療所規模での「最小セット」
200床未満の病院または診療所が対象であることを踏まえると、いきなり全項目を完成させる必要はありません。実務的には、以下を年内に揃えるのが現実的です。
- 基本方針1枚(対象災害・被害想定・診療継続の方針)
- 連絡網と参集基準(電話・SMS・メールでの連絡フロー)
- 初動の役割分担表(誰が患者対応・誰が情報収集・誰が外部連絡か)
- 優先業務リスト(透析・在宅酸素など停止できない業務の特定)
- 定期見直しのスケジュール(年1回以上の見直しと議事録化)
届出書添付書類にも「BCP策定」のチェック欄
別添7 様式1の3「機能強化加算に係る届出書添付書類」には「4.業務継続計画の策定」の有無を記入する欄が設けられています。経過措置期間中の届出書記入の扱いについては、管轄の地方厚生(支)局に確認してください。
なお、診療録管理体制加算1の様式(別添7 様式19付近)には「BCP策定」に加えて「BCPに基づく訓練・演習の実施(年1回程度)」のチェック欄もあり、適時調査時には 策定だけでなく訓練実績まで確認される可能性が高い と考えるのが安全です。

在宅療養支援診療所・在支病のBCP要件 ― 参照する手引きが違う
機能強化加算とは別の手引きを使う
在支診・在支病の施設基準(特掲診療料施設基準等 第三の六の(1))には、新たに「レ 業務継続計画の策定及び定期的な見直しを行うこと」が追加されました。経過措置は機能強化加算と同じ 令和9年5月31日まで です(個別改定項目PDF 001639439.pdf Ⅱ-5-1⑤)。
ただし、参照すべきBCPの手引きは異なります。在支診・在支病が参照するのは、厚生労働省医政局「在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業」が公開する 「BCP策定の手引き(診療所版/入院医療機関版)」 です(令和6年度版ページ)。テンプレートと、感染症・水害・地震に対応したシミュレーション訓練教材も一式公開されています。
機能強化型と通常型でも同様に適用
機能強化型(連携型)在支診・在支病、機能強化型ではない在支診・在支病いずれも、同じ経過措置(令和9年5月31日まで)が適用されます。在宅医療は 入院・外来と異なり「患者宅まで継続して訪問できるか」が論点 になるため、災害時の訪問ルート確保、薬剤・酸素の供給ルート、複数医療機関との連携などが BCP に盛り込むべき要素となります。
在支診のBCP要件は2026年改定で初導入
紛らわしい論点として、介護報酬側では2024年4月からBCP未策定減算が導入され、訪問看護ステーションも2024年4月から運営基準としてBCP策定が義務化されています。一方で 診療報酬側で在支診・在支病にBCP策定要件が追加されたのは2026年改定が初めて です。同一法人で介護事業を併設している施設では、介護側の既存BCP(2024年策定)を医療側にも展開する形で進めると効率的です。ただし、両者は制度系統が異なるため、医療側の手引き(在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業のBCP策定の手引き)に沿って医療向けに整理し直す必要があります。
訪問看護ステーションとの BCP すり合わせ
訪問看護ステーションは2024年4月から運営基準でBCPが義務化されています。在支診と訪問看護ステーションが連携しているケースでは、両者のBCP内容(連絡フロー・優先業務・代替手段など)を すり合わせて運用 することで、適時調査時の説明もしやすくなります。
「今年やらなくていい」改定項目の見極め方
診療所・クリニック規模で関連が深い経過措置
医科クリニック規模で見落としがちな経過措置を抜粋しました。
切り分けの考え方
- 複数項目を同時に経過措置対象とするケース が多く、それぞれ期限が違います。Excelやスプレッドシートで「項目/期限/対応状況/担当」を一元管理するのが確実です。
- 経過措置がついていても、新規に算定を始める場合は対象外 です。例えば、2026年4月以降に新規で機能強化加算を届け出る場合は、BCP策定済みであることが前提になります。
- 経過措置PDFの注記には「経過措置は、今後変更になる可能性がございます。最新の告示、通知及び『施設基準届出チェックリスト』も必ずご参照ください」と明記されています。疑義解釈の更新も都度確認 してください(直近では3/23、4/1、4/9、4/20、4/21に発出)。
電子的診療情報連携体制整備加算の経過措置にも注意
旧「医療DX推進体制整備加算」「医療情報取得加算」が廃止・統合され、新たに 電子的診療情報連携体制整備加算 が新設されました。複数解説サイトの整理によると、点数は 初診時 加算1: 15点 / 加算2: 9点 / 加算3: 4点 / 再診時 2点 / 入院初日 加算1: 160点 / 加算2: 80点 で、初診・再診ともに 月1回算定 に限られます(個別改定項目PDF P.495 でも「月1回に限り」と明記)。
電子カルテ情報共有サービスとの接続インターフェース要件、および院内掲示・Webサイト掲載要件については、複数解説サイトで令和9年5月31日まで経過措置が延長されたとの整理が示されています。原典で経過措置の延長が個別改定項目PDFに明記されているのは 在宅医療DX情報活用加算 と 調剤の電子的調剤情報連携体制整備加算(旧 医療DX推進体制整備加算) で、医科外来・入院の電子的診療情報連携体制整備加算については疑義解釈や個別告示で詳細を確認することをお勧めします。なお、旧加算の届出済み医療機関でも、新加算を算定する場合は 改めて届出が必要 です(疑義解釈その3 問3)。
2026年4月〜2027年5月の年間対応カレンダー
経過措置を逆算して年間タスクに落とし込んだイメージです(自院の届出状況に応じて調整してください)。
ポイントは、BCP策定は「書類1日で作って終わり」ではなく数ヶ月かけて段階的に整備するもの という前提に立つことです。直前の駆け込み対応を避けるため、2026年内に基本方針と連絡網までは仕上げておくことを推奨します。

院内掲示・Web掲示の更新タイミング ― 経過措置期間中の落とし穴
「掲示が先・届出が後」になっていないか
経過措置期間中によくあるのが、届出は経過措置で猶予されているのに、院内掲示・Web掲示だけが新基準に合わせて先行更新される ケースです。例えば、機能強化加算のBCP策定を院内掲示物に「策定済み」と記載しているのに、実際は未策定で経過措置でみなし適合となっているような状態です。
逆のパターン(掲示が古いまま・届出は更新済み)も同じく問題になります。届出と掲示内容に齟齬があると、適時調査・個別指導の場面で説明が必要になり、最悪の場合は返還請求につながるリスクもあります。
Web掲示は「いつ・誰が・何を」記録する
院内掲示は紙ベースなので張り替えればよいのですが、Web掲示(ホームページや掲示専用ページ)は 更新履歴がブラウザ上から見えにくい のが難点です。経過措置期間中は特に、以下を運用ルールとして決めておくと安全です。
- 各掲示項目に 施行日・改定根拠(告示/通知の番号) を併記する
- 改定対応の更新は 更新日と担当者をログ化 する(社内Wiki等)
- BCPのように経過措置中の項目は「策定中」「準備中」と明示する選択肢も検討する
電子的診療情報連携体制整備加算の掲示要件にも注意
新設された電子的診療情報連携体制整備加算は、施設基準(個別改定項目PDF P.498〜499 の「三の七」)に 院内の見やすい場所への掲示およびWebサイトへの掲載要件 が含まれています。各種解説では令和9年5月31日まで経過措置で猶予されているとの整理が一般的ですが、加算を算定するなら掲示の整備は前倒しで取り組んだほうが、適時調査の備えとして安心です。
掲示内容の更新管理が複雑になりがちなクリニック・診療所では、Web掲示専用のページを設けてバージョン管理する方法も有効です。掲示ナビでは、こうした医療機関のWeb掲示義務に対応するための専用ページを提供しています。
よくある質問・間違い
Q. 介護事業所で2024年からBCPを策定済み。在支診として2026年改定で同じBCPを流用してよいですか?
介護報酬側のBCP(2024年4月導入)と、診療報酬側で2026年改定により在支診に追加されたBCPは 制度系統が異なります。基本方針や連絡網など共通化できる部分は流用可能ですが、診療体制継続の論点(訪問ルート確保・薬剤供給など医療特有の要素)は 「在宅医療の災害時における医療提供体制強化支援事業」のBCP策定の手引き に沿って医療向けに整理し直す必要があります。
Q. BCPは紙の文書として何ページ必要ですか?
ページ数の規定はありません。重要なのは 基本方針・事前準備・発災時計画の3層が網羅されていること、定期見直しの実績があること です。診療所規模なら10〜30ページ程度の運用が現実的で、テンプレート(厚生労働省医政局の手引き)を埋める形で作成できます。
Q. 訓練・演習はどの程度必要ですか?
機能強化加算の様式自体には訓練のチェック欄はありませんが、診療録管理体制加算1の様式では「BCPに基づく訓練・演習を年1回程度」 と記載されています。適時調査の指摘事例も踏まえると、年1回の机上演習+議事録化 を最低ラインと考えるのが安全です。
Q. 「経過措置でみなし適合」と「届出書での策定済み」はどう違いますか?
経過措置で「みなし適合」となっている期間は、届出書の「BCP策定」欄の取扱いについて管轄厚生(支)局の運用に従うことになります。策定後の届出書再提出のタイミングや書式の修正方法も含め、地方厚生(支)局に確認してください。
Q. 個別の疑義解釈はどこで確認できますか?
厚生労働省の「令和8年度診療報酬改定について」特設ページに、疑義解釈資料(その1〜その4以降)が随時掲載されます。経過措置の運用も疑義解釈で補足される ため、定期的なチェックが必要です。
まとめ ― 計画的に対応するための3つのチェックポイント
2026年度改定の経過措置を整理し、特にBCP要件(機能強化加算・在支診/在支病)の対応について解説しました。最後に、院長・事務長が押さえるべき3点をまとめます。
- 自院の経過措置対象項目を一覧化する — 期限ごとにExcel等で管理し、対応状況・担当者を見える化
- BCPは数ヶ月かけて段階整備する — 基本方針1枚→連絡網→役割分担→優先業務→訓練の順で、2026年内に骨格、2027年春に完成
- 掲示と届出のズレをなくす — 経過措置中の項目は掲示も実態と合わせる。更新履歴をログ化し、適時調査の備えに
掲示義務のWeb対応についてお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
参考資料