改正の全体像|何が変わったか
告示・通知の正式名称
今回の制度変更は、複数の改正告示と 1 つの通知でまとまっています。今回の選定療養追加に関係する告示は次のとおりです。
| 文書 | 番号 / 発出日 | 内容 |
|---|
| 改正告示 | 令和 8 年厚生労働省告示第 68 号(2026 年 3 月 5 日公布) | 掲示事項等告示の一部改正(保険医の使用医薬品リスト関連) |
| 改正告示 | 令和 8 年厚生労働省告示第 116 号(2026 年 3 月 27 日) | 評価療養・患者申出療養・選定療養等の改正 |
| 改正告示 | 令和 8 年厚生労働省告示第 117 号(2026 年 3 月 27 日) | 保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等の改正 |
| 課長通知 | 保医発 0327 第 6 号(2026 年 3 月 27 日) | 上記告示の実施上の留意事項について(一部改正) |
いずれも 2026 年 6 月 1 日から適用 されます。本記事の事実関係はすべて、保険局医療課長・歯科医療管理官の連名で発出された 保医発 0327 第 6 号通知 の本文に基づきます。
既存の選定療養との位置づけ
選定療養は、保険診療と組み合わせて自費を併用できる「混合診療の例外」です。すでに「差額ベッド」「予約診察」「長期収載品」などが含まれていますが、今回は新たに 2 項目 が加わる形になります。
長期収載品の選定療養は、2026 年 6 月 1 日から「2 分の 1 ルール」(価格差の 1/4 から 1/2 への引き上げ)が始まります。なお、対象医薬品のリスト更新(34 品目追加・264 品目除外、計 775 品目)は 2026 年 4 月 1 日付で行われています。掲示物の更新を含む詳細は、別記事の

長期収載品の選定療養 2026/6/1 から「2分の1」へ Web掲示更新ガイド
長期収載品の選定療養における「特別の料金」の計算が、2026年6月1日から価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられます。Web掲示の必須記載項目・文例・窓口説明スクリプトを厚労省一次資料に基づいて整理しました。
を参照してください。
時間外調剤の選定療養化|薬局向け
どこからどこまでが対象か
改正後の条文では、選定療養の対象が「保険医療機関又は保険薬局が表示する診療時間又は開店時間以外の時間における診察等」に拡張されました。「診察等」には次の 3 類型が含まれます。
- 保険医療機関が表示する診療時間以外の時間における 診察
- 医師の診察とは別日に行う、診療時間以外の時間における 指導管理(外来栄養食事指導料、がん患者指導管理料 ほか)
- 保険薬局が表示する開局時間以外の時間における調剤
ポイントは 3 つ目です。薬局の開局時間外の調剤 が、初めて選定療養(特別の料金徴収が認められる行為)として位置付けられました。
「緊急やむを得ない時間外」と「自己都合の時間外」を分ける
特別料金を徴収できるのは、患者が自己都合で時間外を希望した場合に限られます。緊急やむを得ない時間外調剤は、これまで通り 時間外加算(保険算定) で算定し、患者から特別料金を徴収することはできません。
通知の原文は次のとおりです。
緊急の受診の必要性はないが患者が自由な選択に基づき、自己の都合により時間外診察等を希望した場合に限られ、緊急やむを得ない事情による時間外の診察等については従前通り診療報酬点数表上又は調剤報酬点数表上の時間外加算の対象となり、患者からの費用徴収は認められない。
(保医発 0327 第 6 号通知 P.21〜22「16(1)」)
加えて、選定療養の特別料金を徴収する場合は、その同じ調剤について時間外加算・休日加算・深夜加算は算定できません。緊急時間外(保険算定)と自己都合時間外(選定療養)は、同一行為で二者択一になります。

「対面実施」が必須
通知 P.22「16(3)」では、特別料金の徴収について 対面で行われるものでなければ認められない と明示されています。電話やオンライン服薬指導での時間外対応は、特別料金の徴収対象にはなりません。患者を呼び出して対面で薬を渡す調剤行為に限定される、と理解してください。
徴収額の標準|時間外加算の所定点数 100/100 相当
通知 P.22「16(6)」では、徴収額の 標準 が次のように示されています。
患者からの徴収額については、診療報酬点数表又は調剤報酬点数表における時間外加算の所定点数相当額を標準とすること。
調剤報酬の時間外加算は、調剤報酬点数表(新旧対照表 別紙 1-3)の 区分 01 薬剤調製料の注 4 で「所定点数の 100 分の 100」と定められています。同条項では休日加算が 100/140、深夜加算が 100/200 です。
| 加算区分 | 算定率(所定点数比) | 適用時間帯のイメージ |
|---|
| 時間外加算 | 100 分の 100 | 標榜開局時間外(休日・深夜を除く) |
これはあくまで 標準 であり、絶対的な上限ではありません。社会通念上妥当な範囲で薬局の裁量が認められますが、患者への説明・掲示はこの標準額を起点に組み立てるのが自然です。
「社会通念上の時間外」でなくても、標榜時間外なら徴収可
通知 P.22「16(5)」には少し意外な規定があります。
社会通念上時間外とされない時間帯(例えば平日の午後 4 時)であっても、当該保険医療機関又は保険薬局の標榜診療時間帯又は標榜開局時間帯以外であれば、診療報酬上又は調剤報酬上の時間外加算とは異なり、本制度に基づく時間外診察等に係る費用徴収は認められる。
つまり「うちの薬局は午後 3 時で閉めます」と 標榜していれば、平日午後 4 時の調剤も選定療養として徴収できます。鍵になるのは「標榜している開局時間」 です。
値段や標榜時間を変えるたびに、別紙様式 4 で厚生局へ報告
通知 P.22「16(7)」では、徴収額及び標榜診療時間帯若しくは標榜開局時間帯(前者は医科、後者は薬局)を 定めるとき・変更するとき に、別紙様式 4 により地方厚生(支)局長へ その都度報告 することが求められています。
これは「届出」ではなく「報告」ですが、忘れるとそのまま療担規則違反のリスクになります。料金表や標榜時間を改定したら速やかに様式 4 を提出してください。
院内掲示と Web 掲示はセット義務
通知 P.22「16(4)」には次のように明示されています。
本制度に基づき時間外診察等に係る費用徴収を行おうとする保険医療機関及び保険薬局は、時間外診察等に係る費用徴収についての掲示をあらかじめ院内及び薬局内の見やすい場所に患者にとって分かりやすく示しておかなければならない。また、当該掲示事項について、原則として、ウェブサイトに掲載しなければならないものとする。ただし、自ら管理するホームページ等を有しない保険医療機関及び保険薬局については、この限りではない。
院内(薬局内)掲示と Web 掲示の 両方 が原則義務です。自院でホームページを持っていない薬局のみ Web 掲載は免除されますが、ホームページがある薬局は必ず Web にも掲示 してください。
小児近視抑制薬(アトロピン硫酸塩水和物)の選定療養化|眼科向け
対象薬剤・適応の概要
通知 P.39「31」では、近視進行抑制薬の支給が選定療養として位置付けられました。現在対象となるのは、参天製薬が販売している以下の医薬品です。
国内第 II / III 相試験では、5〜15 歳 で調節麻痺下他覚的等価球面度数 −1.0D 〜 −6.0D かつ 目安として 1 年以内に 0.5D 以上の近視進行が認められた小児 299 例(有効性解析対象)を対象に 無作為化二重遮蔽並行群間比較 が行われ、投与 24 か月後 の評価において 本剤群(101 例)とプラセボ群(99 例)の群間差は 0.637D(95% 信頼区間 0.469〜0.805、p<0.0001) と統計学的に有意な進行抑制効果が確認されています(中医協 総 -3「個別事項について(その 21)近視進行抑制薬の処方に係る検査」 P.2〜3)。
「薬剤費は自費 / 検査・診察は保険給付」の併用が合法化
通知 P.39「31(2)」では、次のとおり示されています。
本制度による近視の進行抑制を効能又は効果とする医薬品の支給に当たって行う検査については、医科点数表「眼科学的検査」の通則 2 に基づき算定すること。
これにより、近視進行抑制薬の処方に併用する屈折検査(D261、69 点)・矯正視力検査(D263、69 点)等は、保険給付として算定できることが明確化されました。
これまで近視進行抑制点眼は、混合診療リスクを避けるために 自由診療一本 で運用してきた眼科が多かったはずです。今回の選定療養化により、次のような併用が 正面から合法的に 認められるようになります。
対象患者と検査頻度の目安
添付文書および製造販売後の臨床試験対象は 5〜15 歳 の近視小児です。治療指針上は、初回処方の 1 週〜1 か月後に来院、以降は 3〜6 か月ごとに定期観察 することが推奨されており、調節麻痺を行う場合は 1 年に 1 度の頻度 が目安とされています。

特別料金(薬剤費)の設定基準
通知 P.39「31(3)」には、次のとおり示されています。
近視の進行抑制を効能又は効果とする医薬品に係る特別の料金については、社会的にみて妥当適切な範囲の額とすること。
明示的な上限額の規定はありません。リジュセアミニは現時点で薬価未収載の医薬品のため、メーカー希望小売価格 + 医療機関のマージンで眼科ごとに価格を設定することになります。
患者の自由な選択と同意
通知 P.39〜40「31(5)」では、患者への十分な情報提供と、自由な選択・同意を求めています。
本制度が適用されるのは、患者に対して近視の進行抑制を効能又は効果とする医薬品の支給に関する十分な情報提供がなされ、保険医療機関及び保険薬局との関係において患者の自由な選択と同意があった場合に限られる。
条文上「文書による同意」という明示はありませんが、同じ第 3 章では先進医療など他の項目で文書同意が明示されています。書面同意を取る運用が無難 です。療担規則第 5 条の 4 第 1 項にも、費用支払を受けるときの説明・同意義務が定められています。
院内掲示と Web 掲示の同水準義務
通知 P.39〜40「31(4)」も、時間外調剤と同じ規定です。
当該掲示事項について、原則として、ウェブサイトに掲載しなければならないものとする。ただし、自ら管理するホームページ等を有しない保険医療機関及び保険薬局については、この限りではない。
院内掲示の文面と、ホームページに掲載する文面は 同水準 にしてください。料金・対象薬剤・対象年齢・同意の取り方を含めるのが標準的な構成です。
領収証は「自費分」と「保険負担分」を区分記載
通知 P.39〜40「31(6)」では、領収証の取り扱いが定められています。
患者から…費用徴収を行った保険医療機関及び保険薬局は、患者に対し、保険外併用療養費の一部負担に係る徴収額と特別の料金に相当する自費負担に係る徴収額を明確に区分した当該費用徴収に係る領収書を交付するものとする。
レセコン・電子カルテの 領収証フォーマットに「自費(特別料金)」欄を追加 しておく必要があります。これは長期収載品・先進医療など他の選定療養項目と同じルールです。
院内掲示・Web 掲示の文例|薬局向けと眼科向け
ここから先は、コピペベースで使える掲示文の テンプレート です。実際の運用にあたっては、自院の徴収額や同意の取り方に合わせて文言を調整してください。
薬局向け|時間外調剤の掲示文例
時間外調剤に係る選定療養について
当薬局では、患者さまのご希望により、当薬局が表示する開局時間以外の時間に
調剤を行う場合、選定療養として下記の特別料金を申し受けます。
■ 対象となる調剤
緊急やむを得ない事情による時間外調剤を除き、患者さまご自身のご都合で
開局時間外の調剤をご希望される場合に限ります。
(緊急時の時間外調剤は、保険診療の時間外加算で対応します)
■ 標榜開局時間
平日 9:00〜18:00 / 土曜 9:00〜13:00 / 日祝 休業
(自院の標榜時間に合わせて記載)
■ 特別料金(税込)
調剤報酬点数表上の時間外加算 所定点数の 100/100 相当額
(具体的金額は窓口でご案内します)
■ 実施方法
対面での調剤に限ります。電話やオンライン服薬指導は対象外です。
■ 患者さまの同意
事前に料金と内容をご説明し、同意をいただいたうえで実施します。
眼科向け|小児近視抑制薬の掲示文例
近視進行抑制薬(アトロピン硫酸塩水和物点眼液)に係る選定療養について
当院では、近視の進行抑制を目的とするアトロピン硫酸塩水和物点眼液
(販売名:リジュセア®ミニ点眼液 0.025%)の処方を希望される患者さまに対し、
選定療養として下記のとおり対応いたします。
■ 対象薬剤
アトロピン硫酸塩水和物点眼液(リジュセア®ミニ点眼液 0.025%)
■ 対象患者
近視の進行抑制を希望し、医師が適応と判断した小児(添付文書および
製造販売後の臨床試験対象は 5〜15 歳)
■ 費用区分
・薬剤費:保険外(特別の料金 / 自費として徴収)
・検査・診察:保険給付(屈折検査・矯正視力検査 等)
■ 薬剤費(税込)
1 箱 30 本入り(約 30 日分)あたり ●●●● 円
(1 本 0.3 mL の使い切り容器、1 日 1 回点眼)
(自院の設定価格を記載)
■ 患者さまの同意
事前に効果・副作用・費用について十分にご説明したうえで、
書面によりご同意をいただきます。
■ 領収証
保険給付分と自費分(特別料金)を明確に区分してお渡しします。

患者説明文例|窓口での口頭説明
書面同意の前に、窓口・診察室で口頭説明する際のフレーズ例です。
薬局窓口(時間外調剤)
「本日のご希望のお時間は、当薬局の開局時間外にあたります。緊急のご事情がある場合は通常の保険算定(時間外加算)で対応できますが、ご自身のご都合での時間外希望の場合は、選定療養という枠組みで特別料金 ●●●● 円をいただくかたちになります。どちらでお進めしましょうか。」
眼科診察室(小児近視抑制薬)
「お子さまの近視進行を抑える点眼薬として、アトロピン硫酸塩水和物点眼液をご紹介します。検査と診察は保険でお取りしますが、お薬代そのものは自費です。1 本 0.3 mL の使い切り容器で、1 日 1 回就寝前に点眼します。1 箱 30 本入り(約 30 日分)で●●●● 円です。効果と副作用について書面でもお渡ししますので、ご検討のうえ同意書にサインをお願いします。」
よくある間違い・確認しておきたいポイント
実務担当者が混同しやすい点を整理します。
「夜間休日等加算」と「時間外調剤の選定療養」は別物
調剤点数表 注 5 の 夜間休日等加算(処方箋受付 1 回 40 点) は、開局時間 内 の午後 7 時以降・休日・深夜の調剤に対する 保険算定 です。今回の選定療養とは別の制度です。
一つの調剤で「保険算定の時間外加算」と「選定療養の特別料金」を 両立はできない
通知 P.21「16(1)」のとおり、特別料金を徴収する場合は時間外加算・休日加算・深夜加算は算定できません。患者ごとに「緊急やむを得ない事情か、それとも自己都合か」を 窓口で判別 してから経理処理してください。
領収証は両項目とも区分記載が必須
時間外調剤・小児近視抑制薬とも、領収証の 保険給付分と自費分(特別料金)の区分記載 が義務付けられています。レセコンの設定漏れに注意してください。
Web 掲示は「ホームページがあれば原則必須」
「自ら管理するホームページ等を有しない場合は除く」という除外規定は、自院でホームページを持っていない場合のみ 適用されます。テンプレ程度の簡易ページを公開している場合でも Web 掲示の対象になり得ます。判断に迷う場合は所管の地方厚生(支)局へ確認してください。
個別の運用判断は厚生局へ
本記事の解説は、通知本文に基づく一般論です。具体的な徴収可否や届出様式の運用については、所管の 地方厚生(支)局 へ事前に確認することをおすすめします。
6 月 1 日までの準備チェックリスト
施行までに整理しておきたい実務項目です。薬局・眼科共通 + 個別項目で整理しました。
共通
薬局(時間外調剤)の追加項目
眼科(小児近視抑制薬)の追加項目
まとめ
2026 年 6 月 1 日から、選定療養に 時間外調剤 と 小児近視抑制薬の支給 が追加されます。どちらも、院内掲示 + Web 掲示の同水準義務 がセットでかかります。
- 時間外調剤:標榜時間外で患者自己都合のとき、対面で実施。徴収額は 時間外加算の所定点数 100/100 相当が標準。料金や標榜時間の変更時は 別紙様式 4 で厚生局へ報告。
- 小児近視抑制薬:薬剤費は 自費(特別の料金)、検査・診察は 保険給付 の併用が合法化。書面同意 と 領収証の区分記載 を整える。
両項目とも、ホームページを持つ薬局・眼科は Web 掲示が原則義務です。6 月 1 日までに、掲示物・同意書・レセコン設定を一通り点検することをおすすめします。
掲示義務のWeb対応についてお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
参考資料