個別指導とは?選定基準・当日の流れ・対策をわかりやすく解説

厚生局から「個別指導」の通知が届いた——。多くの院長にとって、これほど緊張する瞬間はないかもしれません。
個別指導は、保険診療の取り扱いや診療報酬請求が適正に行われているかを確認する行政指導です。結果次第では診療報酬の返還や、最悪の場合は保険医療機関の指定取消に至ることもあります。
本記事では、個別指導の3つの種類、選定基準、当日の流れ、結果の判定、そして普段からできる対策までをわかりやすく解説します。
個別指導とは
個別指導は、健康保険法第73条に基づき、地方厚生(支)局が保険医療機関・保険薬局に対して行う行政指導です。保険診療の質的向上と適正化を目的としています。
適時調査との違い
個別指導と適時調査は混同されやすいですが、確認する対象が異なります。
| 個別指導 | 適時調査 | |
|---|---|---|
| 確認対象 | 診療内容・請求内容(カルテとレセプト) | 施設基準の届出内容(人員・設備・掲示物) |
| 選定方法 | 高点数・情報提供等で選定 | 届出医療機関を順次巡回 |
| 処分の可能性 | あり(指定取消を含む) | なし(返還のみ) |
適時調査との詳しい比較は、

適時調査・個別指導・医療監視の違い|医療機関が受ける3つの調査を比較
適時調査・個別指導・医療監視(立入検査)の目的・対象・頻度・確認内容・結果を比較表で整理。施設種別ごとにどの調査が関係するかも解説。
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個別指導の3つの種類
個別指導には、対象の選定方法や実施形式が異なる3つの種類があります。
1. 新規個別指導
新規に開業した保険医療機関を対象に、保険診療の基本的な取り扱いを確認するものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 新規開業の医療機関(開業後約9ヶ月〜1年6ヶ月) |
| 所要時間 | 約1時間 |
| 患者数 | 10人分のカルテ |
| 形式 | 面接懇談方式 |
新規開業した医療機関は原則として全施設が対象です。避けることはできませんが、基本的な保険診療のルールを守っていれば問題ありません。
2. 集団的個別指導
レセプト1件あたりの平均点数が高い医療機関を対象に、講義形式で実施されるものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | レセプト平均点数が都道府県平均の一定割合を超え、上位約8%に位置する医療機関 |
| 選定基準 | 病院: 平均点数 × 1.1倍超 / 診療所: 平均点数 × 1.2倍超 |
| 所要時間 | 約90分 |
| 形式 | 講義形式(個別のカルテ確認はなし) |
| 結果 | 改善報告や自主返還は不要 |
集団的個別指導自体で処分を受けることはありませんが、翌年度も高点数の上位概ね半数(全体の約4%)に位置すると、個別指導に移行します。
3. 個別指導
最も重い形態の指導です。カルテとレセプトを突き合わせて、診療内容と請求内容の整合性を確認します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 下記の選定基準により選定された医療機関 |
| 所要時間 | 約2〜3時間(診療所は約2時間、病院は約3時間) |
| 患者数 | 20〜30人分のカルテ |
| 形式 | 面接懇談方式 |
選定基準 — なぜ個別指導に選ばれるのか
個別指導に選定される主な理由は以下の通りです。
| 選定理由 | 内容 |
|---|---|
| 情報提供 | 支払基金・保険者・被保険者等から診療内容や請求に関する情報提供があった場合 |
| 再指導 | 前回の個別指導の結果が「再指導」だった場合 |
| 高点数 | 集団的個別指導を受けた翌年度も上位概ね半数(全体の約4%)に位置する場合 |
| 経過観察の未改善 | 前回「経過観察」で改善が認められない場合 |
| 集団的個別指導の拒否 | 正当な理由なく集団的個別指導を拒否した場合 |
| その他 | 厚生局が特に必要と認めた場合 |
ポイント: 「高点数だから」という理由だけでいきなり個別指導になることはありません。まず集団的個別指導の対象になり、その後も改善がない場合に個別指導に進みます。
通知から当日までの流れ
| ステップ | タイミング | 内容 |
|---|---|---|
| 1. 通知 | 約1ヶ月前 | 厚生局から文書で通知。日時・場所・持参物が指定される |
| 2. 患者リスト(1回目) | 約1週間前 | 指導対象の患者20人分のリストが届く |
| 3. 患者リスト(2回目) | 前日正午まで | 追加の患者10人分のリストが届く |
| 4. 当日 | 指定日時 | 面接懇談方式で指導。カルテとレセプトを突き合わせて確認 |
| 5. 結果通知 | 約1ヶ月後 | 書面で結果が通知される |
当日の持参物と確認される内容
持参物
以下の書類を持参する必要があります。
- 選定された患者の診療録(カルテ) — 初診時からすべて
- 選定された患者の検査所見(血液検査・心電図・レントゲン等)
- 2ヶ月分の日計表と出納帳
- レセプト(指導月以前の連続した2ヶ月分)
- その他、通知に記載された書類
注意: 電子カルテの場合はプリントアウトしたものを持参するのが原則です。持参物を忘れると、指導が延期・再実施になることがあります。
確認される主な内容
- カルテ記載の適切さ: 診療内容が十分に記載されているか
- 検査の妥当性: 必要性に基づいた検査が行われているか
- 処方の妥当性: 適正な処方が行われているか
- 算定の正確性: レセプトの算定内容がカルテの記載と一致しているか
- 管理料等の算定要件: 指導内容がカルテに記載されているか
結果の4段階判定と処分

個別指導の結果は、約1ヶ月後に書面で通知されます。判定は以下の4段階です。
| 判定 | 内容 | その後 |
|---|---|---|
| 概ね妥当 | 特に問題なし | 指導終了 |
| 経過観察 | 軽微な問題あり | 改善状況を確認。改善されなければ再指導 |
| 再指導 | 問題あり | 再度個別指導を実施 |
| 要監査 | 重大な問題あり | 監査に移行 |
「要監査」から監査への移行
「要監査」と判定された場合、監査に移行します。監査の結果、以下の行政処分が行われる可能性があります。
| 処分 | 内容 |
|---|---|
| 注意 | 口頭での注意 |
| 戒告 | 書面での警告 |
| 指定取消 | 保険医療機関の指定および保険医の登録が取り消される。最長5年間保険診療ができなくなる |
指定取消は最も重い処分であり、実質的に保険診療での医業ができなくなります。
個別指導で指摘されやすい事項
厚生局が公表している資料や実務上の傾向から、個別指導で指摘される機会が多い事項をまとめます。
医科で指摘されやすい事項
| 分類 | 指摘事項 |
|---|---|
| カルテ記載 | 主訴・所見・治療方針の記載が不十分、指導内容の記載がない |
| 検査 | 必要性の記載がない検査の実施、画一的な検査オーダー |
| 管理料 | 特定疾患療養管理料・生活習慣病管理料の指導内容がカルテに未記載 |
| 処方 | 漫然とした長期処方、処方変更理由の未記載、適応外処方 |
| 算定 | カルテ記載と算定内容の不一致、算定要件を満たさない項目の請求 |
| 院内掲示 | 届出施設基準の掲示不備、ウェブサイトへの未掲載 |
歯科で指摘されやすい事項
| 分類 | 指摘事項 |
|---|---|
| カルテ記載 | 歯式の未記載・誤記、治療計画の記載不足 |
| 管理料 | 歯科疾患管理料の管理計画の記載不備 |
| 処置・手術 | 算定要件を満たさない加算の請求 |
| 補綴 | 補綴物維持管理料の説明・同意の記載不備 |
薬局で指摘されやすい事項
| 分類 | 指摘事項 |
|---|---|
| 薬歴 | 薬学的管理の内容が画一的、指導内容の記載が不十分 |
| 服薬指導 | かかりつけ薬剤師指導料の同意書不備、指導内容の未記載 |
| 後発医薬品 | 後発医薬品への変更提案の記録がない |
| 調剤 | 処方箋の確認不備、疑義照会の記録不足 |
ポイント: 指摘事項の多くは「記載不備」に集中しています。診療内容自体が問題というよりも、カルテ・薬歴への記載が不十分なために指摘されるケースが大半です。
詳細は近畿厚生局の個別指導・適時調査で指摘する機会が多い事項についてを参照してください。
個別指導への備え — 普段からできる対策
1. カルテ記載を充実させる
個別指導で最も重視されるのはカルテの記載内容です。以下を日常的に心がけましょう。
- 患者の主訴・所見・診断・治療方針を毎回記載する
- 検査の実施理由を記載する
- 管理料の算定時には指導内容を具体的に記載する
- 処方変更時には変更理由を記載する
2. レセプトとカルテの整合性を確認する
算定している項目が、カルテの記載内容と一致していることを定期的に確認しましょう。
3. 院内掲示・ウェブサイト掲載を最新に保つ
個別指導の場でも院内掲示の状況を確認されることがあります。届出している施設基準の掲示が最新の状態であるか、ウェブサイトにも掲載されているかを確認しておきましょう。
自院の届出状況の確認方法は、

施設基準の届出一覧|自院の届出状況を確認する3つの方法
自院の施設基準の届出一覧を確認する3つの方法(厚生局サイト・医療情報ネット・届出控え)と、届出状況と掲示義務の関係を解説。厚生局ごとの確認ページリンク付き。
で解説しています。
Web掲示の対応方法は、

ウェブサイト掲示義務の対応方法|何をどう載せればいい?具体例つきで解説
医療機関のウェブサイト掲示義務について、何を掲載すべきか・どう対応すべきかを具体例つきで解説します。令和8年改定での変更点も網羅。
をご覧ください。
施設名で検索するだけで、あなたの医療機関に必要な掲示義務の一覧と、実際の掲示ページのデモをご覧いただけます。
よくある質問
Q. 個別指導の通知を受けたら弁護士に相談すべきですか?
新規個別指導や集団的個別指導であれば、通常は弁護士への相談は不要です。ただし、「個別指導」(選定された場合)については、不安がある場合は保険医協会や医療専門の弁護士に相談することを検討してもよいでしょう。
Q. 個別指導を拒否できますか?
正当な理由のない拒否は監査に移行する可能性があります。拒否は推奨しません。
Q. 集団的個別指導を受けたら必ず個別指導に進みますか?
いいえ。集団的個別指導を受けた翌年度に平均点数が下がり、上位概ね半数(全体の約4%)を下回れば、個別指導に進みません。
Q. 新規個別指導で「再指導」になることはありますか?
あります。新規個別指導でもカルテ記載の不備や算定の問題が多い場合は「再指導」になることがあります。日常的にカルテ記載を丁寧に行うことが最善の対策です。
Q. 薬局も個別指導の対象ですか?
はい。保険薬局も健康保険法第73条に基づく個別指導の対象です。薬歴の記載内容やレセプトとの整合性が確認されます。
まとめ
個別指導は、保険診療の適正性を確認する重要な行政指導です。
- 3つの種類: 新規個別指導(全開業医が対象)、集団的個別指導(高点数で選定)、個別指導(情報提供等で選定)
- 選定基準: 高点数だけでなく、情報提供や前回の指導結果も選定理由になる
- 結果は4段階: 概ね妥当 → 経過観察 → 再指導 → 要監査
- 最善の対策: カルテ記載を充実させること
- 掲示物の管理も確認対象になる
普段から適正な保険診療とカルテ記載を心がけることが、個別指導への最も効果的な備えです。
適時調査への備えについては、

適時調査チェックリスト|当日までに準備すべきこと完全版
適時調査の通知が届いたら何を準備すべきか。事前提出書類・掲示物・人員配置のチェックリストと、よくある指摘事項TOP5を解説。
で解説しています。
掲示義務のWeb対応についてお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
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参考資料
- 保険診療における指導・監査 — 厚生労働省
- 指導・監査の根拠規定(PDF) — 厚生労働省
- 保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について(PDF) — 厚生労働省
- 集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について(PDF) — 北海道厚生局
- 個別指導・適時調査で指摘する機会が多い事項について — 近畿厚生局