適時調査・個別指導・医療監視の違い|医療機関が受ける3つの調査を比較

医療機関には、行政からさまざまな調査や指導が入ることがあります。「適時調査」「個別指導」「医療監視(立入検査)」——名前は聞いたことがあっても、それぞれの違いを正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
本記事では、この3つの調査・検査の目的・根拠法令・対象・頻度・確認内容・結果を比較し、「自院にはどれが関係あるのか」を判断できるように整理します。
医療機関が受ける3つの調査・検査
医療機関に対する行政の調査は、大きく以下の3つに分けられます。
- 適時調査 — 施設基準の届出内容が適正に運用されているかの確認(厚生局)
- 個別指導 — 保険診療の取り扱いや診療報酬請求の適正性の確認(厚生局)
- 医療監視(立入検査) — 医療法に基づく医療機関の管理体制・設備の検査(保健所)
それぞれ根拠となる法律が異なり、実施する行政機関も異なります。
3つの調査の比較表
| 適時調査 | 個別指導 | 医療監視(立入検査) | |
|---|---|---|---|
| 根拠法令 | 適時調査実施要領(厚労省通知) | 健康保険法第73条 | 医療法第25条 |
| 実施機関 | 地方厚生(支)局 | 地方厚生(支)局 | 都道府県・保健所 |
| 目的 | 施設基準の届出内容の確認 | 保険診療・請求内容の確認 | 医療法に基づく管理体制・設備の検査 |
| 主な対象 | 病院(原則) | 病院・診療所・薬局 | 病院・診療所・助産所 |
| 選定方法 | 届出医療機関を順次巡回 | 高点数・情報提供等で選定 | 原則として全医療機関を巡回 |
| 頻度 | 原則年1回(実質は数年に1度) | 不定期 | 病院: 原則毎年 / 有床診療所: 3年に1回 / 無床診療所: 5年に1回 |
| 所要時間 | 約3時間(半日) | 約2〜3時間 | 約2〜3時間 |
| 通知 | 約3週間〜1ヶ月前 | 約1ヶ月前(患者リストは1週間〜前日) | 事前通知あり |
| 確認内容 | 人員配置・設備・掲示物・届出書類 | カルテ・レセプト・診療内容 | 人員配置・構造設備・清潔保持・医薬品管理・診療録 |
| 診療報酬の返還 | あり(基準を満たさない場合) | あり(不当請求の場合) | なし |
| 保険医の指定取消 | なし | あり(監査に移行した場合) | なし |
ポイント: 適時調査と個別指導は「保険診療」に関する調査で厚生局が実施し、医療監視は「医療法」に基づく検査で保健所が実施します。
適時調査の概要
適時調査は、地方厚生局が施設基準の届出内容が適正に運用されているかを確認する調査です。
主な確認項目
- 届出している施設基準の人員配置が基準を満たしているか
- 院内掲示が届出内容と一致しているか
- ウェブサイトに掲示事項が掲載されているか
- 看護要員の勤務実績表に誤りがないか
- 保険外負担の料金掲示が適切か
結果
不備が見つかった場合は改善指導が行われ、施設基準を満たしていないと判断された場合は届出の変更または辞退と診療報酬の返還が求められます。令和5年度の全国の返還額は約32億円でした。
適時調査の詳しい準備方法は、

適時調査チェックリスト|当日までに準備すべきこと完全版
適時調査の通知が届いたら何を準備すべきか。事前提出書類・掲示物・人員配置のチェックリストと、よくある指摘事項TOP5を解説。
で解説しています。
個別指導の概要
個別指導は、地方厚生局が保険診療の取り扱いや診療報酬請求の適正性を確認する指導です。適時調査が「施設基準」を見るのに対し、個別指導は「診療内容そのもの」を見ます。
個別指導の種類
| 種類 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 新規個別指導 | 新規開業の医療機関(開業後約1年以内) | 保険診療の基本的な取り扱いの確認 |
| 集団的個別指導 | レセプト平均点数が上位8%の医療機関 | 講義形式で保険診療のルールを説明 |
| 個別指導 | 情報提供・高点数等で選定された医療機関 | カルテとレセプトを突き合わせて確認 |
選定基準
個別指導に選定される主な理由は以下の通りです。
- 支払基金・保険者・被保険者等からの情報提供
- 前回の個別指導が再指導の結果だった場合
- 集団的個別指導の翌年度も高点数の上位概ね半数(全体の約4%)に位置する場合
- 正当な理由のない集団的個別指導の拒否
当日の流れ
- 患者リスト: 実施日の1週間前に患者10〜20人分のリストが届く(一部は前日に通知)
- 持参物: 選定された患者のカルテ(初診時から)、レセプト、関連書類
- 方式: 面接懇談方式で、指導医療官等がカルテとレセプトを照合しながら確認
結果
個別指導の結果は以下の4段階で判定されます。
| 判定 | 内容 |
|---|---|
| 概ね妥当 | 特に問題なし |
| 経過観察 | 軽微な問題があり、今後改善を確認 |
| 再指導 | 問題があり、再度個別指導を実施 |
| 要監査 | 重大な問題があり、監査に移行 |
要監査に進んだ場合、保険医療機関の指定取消や保険医の登録取消の可能性があります。
個別指導の詳しい解説は、

個別指導とは?選定基準・当日の流れ・対策をわかりやすく解説
個別指導の3つの種類(新規・集団的・個別)、選定基準、当日の流れ・持参物、結果の4段階判定、監査への移行、普段からできる対策を解説。
をご覧ください。
医療監視(立入検査)の概要
医療監視(立入検査)は、医療法第25条に基づき、都道府県や保健所が医療機関の管理体制・設備・衛生状態等を検査するものです。
適時調査・個別指導との最大の違い
- 診療報酬の返還を求められることはない
- 保険医の指定取消もない
- 確認するのは「保険診療」ではなく「医療法の遵守」
主な確認項目
- 人員配置: 医師・看護師等の配置が医療法の基準を満たしているか
- 構造設備: 施設の構造や設備が基準に適合しているか
- 清潔保持: 院内の清潔が保たれているか
- 医薬品管理: 医薬品・医療機器の管理が適切か
- 診療録の管理: カルテが適切に保管されているか
- 安全管理体制: 医療安全管理指針の策定、院内感染対策、医薬品安全管理体制
- 個人情報保護: 患者の個人情報が適切に管理されているか
頻度
| 施設種別 | 頻度の目安 |
|---|---|
| 病院 | 原則として毎年 |
| 有床診療所 | 3年に1回程度 |
| 無床診療所 | 5年に1回程度 |
結果
不備があった場合は改善指導が行われます。重大な違反の場合は、医療法に基づく改善命令や業務停止命令が出される可能性がありますが、一般的な立入検査で重い処分に至るケースはまれです。
立入検査の詳しい解説は、

医療監視(立入検査)とは?保健所が確認する項目と準備のポイント
医療監視(立入検査)の検査項目・施設種別ごとの頻度・近年の重点事項(医師の働き方改革・サイバーセキュリティ)・事前準備のポイントを解説。
をご覧ください。
自院にはどれが関係あるか
施設種別ごとに、関係する調査・検査を整理します。
病院
3つすべてが関係します。特に適時調査と医療監視は定期的に実施されるため、日常的な備えが必要です。
有床診療所(クリニック)
- 適時調査: 施設基準を多く届け出ている場合は対象になることがある
- 個別指導: 新規開業時の新規個別指導は必須。高点数の場合は選定対象
- 医療監視: 3年に1回程度
無床診療所(クリニック)
- 適時調査: 対象になることは少ない
- 個別指導: 新規開業時の新規個別指導は必須。高点数の場合は選定対象
- 医療監視: 5年に1回程度
薬局
- 適時調査: 対象になることがある
- 個別指導: 対象
- 医療監視: 薬事監視(薬機法に基づく)が別途あり
いずれの調査でも院内掲示の適切さが確認項目に含まれています。自院の届出一覧と掲示状況を確認しておくことが最も効果的な備えです。
自院の届出状況の確認方法は、

施設基準の届出一覧|自院の届出状況を確認する3つの方法
自院の施設基準の届出一覧を確認する3つの方法(厚生局サイト・医療情報ネット・届出控え)と、届出状況と掲示義務の関係を解説。厚生局ごとの確認ページリンク付き。
で解説しています。
よくある質問
Q. 適時調査と個別指導は同時に来ることがありますか?
通常は別々に実施されます。ただし、適時調査で不正請求が疑われる場合は個別指導に移行することがあります。
Q. 医療監視と適時調査はどちらが先に来ますか?
実施機関が異なる(保健所 vs 厚生局)ため、順序に決まりはありません。同じ年度に両方来ることもあります。
Q. 個別指導を拒否するとどうなりますか?
正当な理由のない拒否は監査に移行する可能性があります。監査では保険医療機関の指定取消も含む重い処分が課される場合がありますので、拒否は推奨しません。
Q. 診療所は適時調査を気にしなくていいですか?
対象になるケースは少ないですが、掲示義務自体は診療所にも適用されます。また、個別指導や医療監視では掲示物の確認が行われますので、掲示物の管理は全ての医療機関に必要です。
まとめ
医療機関が受ける3つの調査・検査の違いを理解しておくことで、適切な備えができます。
- 適時調査: 施設基準の確認(厚生局)。掲示物の不備が最多の指摘事項
- 個別指導: 診療内容・請求の確認(厚生局)。カルテとレセプトが中心
- 医療監視: 医療法の遵守確認(保健所)。設備・安全管理・衛生が中心
3つに共通するのは、院内掲示が適切に行われているかが確認される点です。ウェブサイトへの掲示義務も義務化されていますので、院内掲示とウェブサイト掲載の両方を日常的に管理しておくことが、どの調査にも対応できる最善の策です。
具体的なWeb掲示の対応方法は、

ウェブサイト掲示義務の対応方法|何をどう載せればいい?具体例つきで解説
医療機関のウェブサイト掲示義務について、何を掲載すべきか・どう対応すべきかを具体例つきで解説します。令和8年改定での変更点も網羅。
で解説しています。
掲示義務のWeb対応についてお困りの方は、お気軽にお問い合わせください。
参考資料
- 保険診療における指導・監査 — 厚生労働省
- 適時調査実施要領等 — 厚生労働省
- 医療法に基づく立入検査について — 厚生労働省
- 医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査要綱(PDF) — 厚生労働省
- 個別指導・適時調査で指摘する機会が多い事項について — 近畿厚生局
- 集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について(PDF) — 北海道厚生局
