ベースアップ評価料の運用Q&A|新設手当への充当・算定期間・事務職員の範囲(疑義解釈その7)

令和8年5月29日、厚生労働省保険局医療課から「疑義解釈資料の送付について(その7)」が発出されました。令和8年(2026年)6月1日施行のR8診療報酬改定について、運用上の取扱いを整理した事務連絡です。
このうち別添2は「看護職員処遇改善評価料及びベースアップ評価料関係」として、問1から問7までが示されました。届出の単位、新しく設けた手当への充当、算定期間と賃金改善期間の関係、「事務職員」の範囲など、現場で判断に迷いやすい論点が並んでいます。
ベースアップ評価料は、医科・歯科・薬局・訪問看護のいずれの業態にも関わる評価料です。賃上げの原資をどう扱うかは業態を問わず関心が高いため、この記事では別添2の問1から問7を一次資料に沿って整理します。
ベースアップ評価料とは|疑義解釈その7での位置づけ
ベースアップ評価料は、看護職員・事務職員などの賃金改善(ベースアップ)を行うための原資を保険診療の収入として手当てする評価料です。令和6年(2024年)の改定で新設され、医科・歯科・薬局・訪問看護それぞれに区分が設けられました。R8改定(令和8年6月1日施行)では、施設基準や届出の様式が見直されています。
「疑義解釈資料」とは、改定の告示や通知だけでは判断しきれない取扱いについて、厚労省が問答形式で示す事務連絡です。法令そのものではありませんが、地方厚生局はこの内容に沿って運用するため、実務上は確認が欠かせません。
今回の別添2では、ベースアップ評価料について問1から問6、看護職員処遇改善評価料について問7が示されています。以下、論点ごとに見ていきます。
問1|賃金改善の対象に含められる「健康増進事業(健診等)」の範囲
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅱ)、入院ベースアップ評価料、訪問看護ベースアップ評価料(Ⅱ)の施設基準では、賃金改善の対象として「健康増進法第6条各号に掲げる健康増進事業実施者が行う同法第4条に規定する健康増進事業(健康診査に係るものに限る)」が引用されています。問1は、これが具体的に何を指すかを確認したものです。
答として、次の健康診査・健康診断が該当するとされました。
- 健康保険法に基づき保険者が行う健康診査
- 船員保険法に基づき全国健康保険協会が行う健康診査
- 国民健康保険法に基づき保険者が行う健康診査
- 国家公務員共済組合法に基づく健康診査
- 地方公務員等共済組合法に基づく健康診査
- 私立学校教職員共済法に基づき日本私立学校振興・共済事業団が行う健康診査
- 学校保健安全法に基づき学校で実施される健康診断、または市町村の教育委員会が行う健康診断
- 母子保健法に基づき市町村が行う健康診査
- 労働安全衛生法に基づき事業者が行う健康診断、労働者が受ける健康診断、または労働者が自ら受ける健康診断
- 高齢者の医療の確保に関する法律に基づく特定健康診査、および後期高齢者医療広域連合が行う健康診査
賃金改善の対象範囲を確認するうえでの根拠が、法律名とともに具体的に列挙された点が問1のポイントです。
問2|届出は「法人一括NG・施設ごと」
問2は、ベースアップ評価料の施設基準に係る届出を、法人本部等がまとめて行ってよいかを確認したものです。具体的には、次の2つのケースが挙げられています。
- 法人本部等でまとめて届出書を作成した場合
- 法人内またはグループ内の同一の給与体系に基づく複数の保険医療機関等を通算して区分計算を行った場合
これらの場合に、法人本部等が一括して、各施設の所在地を所管する地方厚生局の都道府県事務所へ届け出てよいか、また「賃金改善実績報告書」「賃金改善中間報告書」の提出も同様でよいか、という問いです。
答は明確で、いずれの場合も不可。各保険医療機関等が、それぞれ所管の地方厚生局へ届け出ることとされました。届出書の作成や区分計算を本部で取りまとめること自体は想定されていても、提出の主体と提出先はあくまで施設単位です。複数施設を運営する法人では、ここを取り違えると届出漏れにつながるため注意が必要です。
問3|令和8年4月以降に新設した手当に充ててよいか
問3は、ベースアップ評価料による収入を、令和8年4月以降に新しく設けた手当に充ててよいかを確認したものです。
答は、その手当が一時的に支払われるものではなく、対象職員に対して決まって毎月支払われる給与(基本給等の一部)であれば差し支えない、というものです。
ここで読み違えやすいのは「新設の手当だからダメ」と早合点してしまう点です。論点は新設かどうかではなく、その手当が「一時的」か「毎月決まって支払われる」かにあります。賞与や一時金のように単発で支払われるものは対象外で、毎月の給与として継続的に支払われる手当であれば充当できる、という整理です。
問4|算定期間と賃金改善期間がズレてよいか
問4は、ベースアップ評価料の算定期間と賃金改善の実施期間が異なってよいかを確認したものです。例として、ベースアップ評価料を令和8年6月から同年12月まで算定し、その収入を令和8年6月から令和9年3月までの賃金改善に充ててよいか、という具体的なケースが示されています。
答は、原則として不可。算定期間と賃金改善の実施期間は一致する必要があるとされました。
ただし例外があります。令和8年4月から賃金改善を実施する場合については、令和8年6月から令和9年5月までにベースアップ評価料で得られた収入を、令和8年4月から令和9年3月までの賃金改善に充てることが認められています。改定施行(6月)より前の4月から賃上げを先行して始めたケースを救済する取扱いと読めます。
「原則一致」という基本と、「4月開始の場合の例外」をセットで押さえておくのが問4のポイントです。
問5|複数施設に勤務する職員の区分計算
問5は、ベースアップ評価料を算定する施設に勤務する職員が、他の保険医療機関等でも勤務している場合に、区分計算をどう考えるかを確認したものです。
答の要点は次のとおりです。
- それぞれの施設で、その職員の勤務実態に応じて、常勤換算等の方法により基本給等総額を按分したうえで区分計算を行う。
- この取扱いは、他の勤務先がベースアップ評価料を算定する施設かどうかに関わらず同一とする。ここでいう他の勤務先には、介護報酬の介護職員等処遇改善加算、障害福祉サービス等報酬の福祉・介護職員等処遇改善加算、施設型給付費等の処遇改善等加算を算定する施設・事業所も含む。
- ただし、法人本部等に所属する職員が、主として保険医療機関等の業務を行っている場合に限り、その職員を対象職員として区分計算を行う。この場合は勤務実態に応じた按分は行わない。
- 賃金改善実績報告書には、それぞれの施設で算定するベースアップ評価料による賃金改善分のみを計上する。
掛け持ち勤務の職員をどちらか一方に丸ごと計上するのではなく、勤務実態に応じて按分するのが原則である点が問5の核です。
問6|「事務職員」はどこまで含むか
問6は、ベースアップ評価料の対象職員のうち「事務職員」が具体的に何を指すかを確認したものです。
答は、主として事務を担当している者を指し、医師事務作業補助者(医療クラーク)および診療情報管理士を含む、というものです。
ここは取り違えやすい論点です。「クラーク」「補助者」という言葉から、看護補助者まで含まれると考えてしまいがちですが、問6が明示したのはあくまで「主として事務を担当している者」であり、例示として挙げられているのは医師事務作業補助者(医療クラーク)と診療情報管理士です。誰を対象職員としてカウントするかは賃金改善計画や区分計算に直結するため、定義を原文どおりに確認しておくことが大切です。
問7|看護職員処遇改善評価料の届出方法
問7は、看護職員処遇改善評価料の届出方法を確認したものです。R8改定により、看護職員処遇改善評価料は入院ベースアップ評価料と同様の様式で届出を行うこととされました。そのうえで、新たに届出を行う場合や届出区分を変更する場合、具体的にどう届け出ればよいかが問われています。
答は、施設の所在地を管轄する地方厚生局の都道府県事務所ごとに設定されたメールアドレスへ、エクセルファイルを提出することにより行う、というものです。自ら管理するメールアドレスを持たない等の場合には、書面による提出でも差し支えないとされています。提出先のメールアドレスは、各地方厚生局のホームページを参照することとされました。
エクセルファイルをメールで提出するという様式に統一された点が、問7の実務的なポイントです。
早見表|別添2 問1〜問7の要点
| 問 | 論点 | 要点 |
|---|---|---|
| 問1 | 健康増進事業(健診等)の範囲 | 健康保険法・労働安全衛生法・学校保健安全法など、法律に基づく健康診査・健康診断を具体的に列挙 |
| 問2 | 届出は法人一括でよいか | 不可。各保険医療機関等が所管の地方厚生局へ施設ごとに届け出る |
| 問3 | 令和8年4月以降に新設した手当への充当 | 一時的でなく、決まって毎月支払われる給与(基本給等の一部)であれば可 |
| 問4 | 算定期間と賃金改善期間のズレ | 原則一致が必要。令和8年4月から賃金改善を実施する場合のみ例外あり |
| 問5 | 複数施設勤務職員の区分計算 | 勤務実態に応じ常勤換算等で基本給等総額を按分。本部所属で主に施設業務を行う者は按分せず計上 |
| 問6 | 「事務職員」の範囲 | 主として事務を担当する者。医師事務作業補助者(医療クラーク)・診療情報管理士を含む |
| 問7 | 看護職員処遇改善評価料の届出 | 都道府県事務所ごとのメールアドレスへエクセルで提出(書面も可)。宛先は各厚生局HP参照 |
まとめ
疑義解釈その7(令和8年5月29日)の別添2は、ベースアップ評価料と看護職員処遇改善評価料の運用について、現場で迷いやすい7つの論点を整理しました。特に押さえておきたいのは次の点です。
- 届出は法人一括ではなく、施設ごとに所管の地方厚生局へ(問2)。
- 新設の手当でも、毎月決まって支払われる給与であれば充当できる(問3)。
- 算定期間と賃金改善期間は原則一致。4月開始の場合のみ例外(問4)。
- 「事務職員」は主として事務を担当する者で、医師事務作業補助者・診療情報管理士を含む(問6)。
- 看護職員処遇改善評価料の届出は、都道府県事務所のメールアドレスへエクセルで提出(問7)。
ベースアップ評価料に伴う賃金改善計画や区分計算は、業態を問わず多くの医療機関・薬局・訪問看護ステーションが対応に追われる作業です。なお、評価料の算定にあたっては、賃金改善の体制等を院内・Webに掲示する対応も求められます。掲示の整備を自院の手で抱え込みたくない場合は、届出データを起点に掲示内容を自動で組み立てる掲示ナビのような仕組みを併用すると、改定対応の手間を医療そのものに振り向けやすくなります。
その7の全体像は

疑義解釈(その7)令和8年5月29日|医療機関・薬局が押さえる改定Q&A総まとめ
疑義解釈(その7)令和8年5月29日の全43問を、医科・ベースアップ・調剤・訪問看護のテーマ別に総まとめ。自院に関係する項目を素早く見つけられる総覧です。
で、掲示義務に関する別添の取扱いは

【掲示義務】連携先は全機関掲示・薬局のデジタルサイネージはOK?疑義解釈その7で確定した掲示ルール
疑義解釈(その7)で確定した掲示の2論点。電子的診療情報連携体制整備加算は連携先「全機関」を掲示、薬局はデジタルサイネージ掲示が条件付きで容認。医科・薬局向けに実務を解説します。
で確認できます。ベースアップ評価料の院内掲示は

ベースアップ評価料の院内掲示テンプレ集【無料】|全業態 2026年6月改定対応
2026年6月改定で対象職員が拡大したベースアップ評価料の院内掲示テンプレを医科外来・歯科外来・薬局・入院・職員周知の5パターンで提供。事務職員に加え40歳未満の勤務医・歯科医・薬剤師も新規対象、再届出は6/1必着。コピペで使える掲示文面集として活用ください。
も参考にしてください。
出典・参考
一次資料(厚生労働省)
- 厚生労働省保険局医療課「疑義解釈資料の送付について(その7)」(令和8年5月29日 事務連絡/別添2「看護職員処遇改善評価料及びベースアップ評価料関係」問1〜問7) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001706317.pdf
