【2026年6月】予約の患者都合キャンセル料は実費徴収できる?取れるのは選定療養の予約診察だけ|掲示義務も解説

2026年(令和8年)6月1日から、医療機関が患者から実費を徴収できるサービスの範囲が広がりました。その一つが「予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料」です。改定直後の5月末には「保険診療でも、ついにドタキャンにキャンセル料が取れるようになる」という受け止めが一気に広まり、ニュースでも取り上げられました。
ですが、ここには大きな誤解が含まれています。すべての予約診療でキャンセル料が取れるようになったわけではありません。厚生労働省は2026年5月29日に疑義解釈を出し、「これは選定療養の『予約に基づく診察』に限った話だ」とわざわざ念押ししています。
この記事では、6月1日施行を踏まえて、予約キャンセル料を「誰が」「どんなとき」徴収できるのか、そして徴収するなら避けて通れない掲示・同意・領収証の手続きまで、厚生労働省の通知(一次資料)に当たって正確に整理します。
何が変わったのか:6月1日から実費徴収の項目が追加
予約キャンセル料の根拠は、「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」という通知の一部改正(保医発0327第7号、令和8年3月27日)です。この改正により、令和8年6月1日から、患者から実費を徴収できるサービスの例にいくつかの項目が追加されました。
「療養の給付と直接関係ないサービス」とは、保険診療そのものとは別に提供されるサービスのことです。これまでも、診断書などの文書料や、おむつ代、入院時の付加的なアメニティなどが、患者の同意を前提に実費徴収できるサービスとして整理されてきました。今回の改正で新たに加わったのは、おもに次の4つです。
- 選定療養における予約に基づく診察の、患者都合によるキャンセル料
- 予約やオンライン診療の受診に係るシステム利用料
- 在留外国人の診療に必要となる多言語対応に要する費用(通訳の手配料や翻訳機の使用料など)
- Wi-Fi利用料
このうち、いちばん話題になったのが予約キャンセル料です。そして、いちばん誤解されているのも、この項目です。
なお、実費徴収(療養の給付と直接関係ないサービス)と、差額ベッドなどの保険外併用療養費は、根拠も掲示のルールも別物です。両者の違いは保険外併用療養費と実費徴収の違いとは?掲示義務と2026年6月の追加項目を解説で整理しています。
いちばん大事な前提:取れるのは「選定療養の予約診察」だけ
ここが本記事の核心です。予約キャンセル料を徴収できるのは、選定療養としての「予約に基づく診察」を実施し、その内容・費用を地方厚生(支)局長に報告したうえで、予約料を徴収している医療機関に限られます。
選定療養の「予約に基づく診察」とは、患者の希望で予約診察を行い、その対価として予約料(特別の料金)を徴収する仕組みで、医療機関はその内容・費用を院内に掲示し、地方厚生(支)局長に報告することが求められます。この仕組みを採っている医療機関が、予約した患者に直前でキャンセルされたときに限って、キャンセル料を徴収できる、という建て付けになっています。
逆にいえば、予約料を取らずに無料で予約を受け付けているだけの医療機関は、今回の改正の対象外です。「うちも予約制だから、ドタキャンにキャンセル料を取れる」とはなりません。予約制であることと、選定療養の予約診察を実施・報告していることは、まったく別の話です。
実は、通知の本文自体が当初から「選定療養における予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料」と書いています。それでも「保険診療一般でキャンセル料が解禁された」という理解が広がってしまったため、厚生労働省は2026年5月29日付の疑義解釈で、改めてこう確認しました。
問 療養の給付と直接関係ないサービスとして「予約に基づく診察の患者都合によるキャンセル料」が追加されたが、これは選定療養における「予約に基づく診察」において、当該診察日の直前に患者都合で予約がキャンセルされた場合に限って、患者から費用の徴収が認められたということか。 (答)そのとおり。
つまり、報道で広まった「保険診療でキャンセル料が取れる」という理解は不正確で、正確には「選定療養の予約診察を行い報告している医療機関が、その予約に限って取れる」が正しい姿です。
参考までに、選定療養の「予約に基づく診察」を行っている医療機関は、厚生労働省の報告状況によると令和6年8月1日現在で全国928施設です(医科・歯科の合計)。報告している医療機関は決して多くありません。自院が該当するかどうかは、報告の内容を必ず確認してください。
徴収できるのは「患者都合・診察日直前」のキャンセルに限る
選定療養の予約診察を行い報告している医療機関であっても、どんなキャンセルでも徴収できるわけではありません。通知は徴収できる場面を次のように限定しています。
- 患者都合によるキャンセルであること
- 診察日の直前にキャンセルされた場合に限ること
- 予約に当たり、患者都合キャンセルの場合には費用徴収がある旨を事前に説明し、同意を得ていること
医療機関側の都合による休診や、余裕をもって連絡された予約変更は対象になりません。あくまで、予約した患者が直前になって自己都合でキャンセルした場合に限られます。そして、予約を受け付ける段階で「直前キャンセルには費用がかかること」を説明し、患者の同意を得ておくことが前提です。
選定療養そのものの2026年6月改定での変更点は2026年6月改定で変わる選定療養、4つの告示と掲示対応で扱っています。
徴収するなら必須:掲示・同意・領収証の3点セット
実費徴収できるサービスには、共通して守るべき手続きがあります。予約キャンセル料を徴収するなら、次の3点は避けて通れません。
① 院内掲示(+原則ウェブサイト掲載)
通知は、徴収するサービスの内容と料金を、院内の見やすい場所(受付窓口、待合室など)に、患者にとって分かりやすく掲示するよう求めています。さらに、この掲示事項は原則としてウェブサイトにも掲載しなければならないとされています。自院で管理するホームページ等を持たない医療機関は、Web掲載までは求められません。
ここが、いわゆるWeb掲示義務とつながる部分です。予約キャンセル料を新たに徴収するなら、料金表を院内に貼るだけでなく、HPがある医療機関は自院サイトにも載せる必要があります。掲示事項全体の考え方はウェブサイト掲示義務とは?制度の全体像と対応期限を解説【第1部】を参照してください。
② 文書による同意確認
費用を徴収する際は、サービスの内容や料金を明確かつ懇切に説明し、内容・料金を明示した文書に患者の署名を受けて同意を確認することが求められます。口頭の説明だけでは足りません。予約キャンセル料の場合は、予約を受け付ける時点での説明と同意がこれに当たります。なお、徴収する費用は「社会的にみて妥当適切」な水準にとどめる必要があります。
③ 区別した領収証の発行
費用を徴収したら、他の費用と区別した、内容のわかる領収証を発行します。保険診療の一部負担金と混同されない形で、キャンセル料として明確に区分して受領することが必要です。
実費徴収の掲示は、厚生労働大臣が定める掲示事項とも地続きです。掲示事項の全体像は厚生労働大臣が定める掲示事項とは?医科・歯科・薬局別に全項目を解説で確認できます。
施行直後の今、確認すべきこと
6月1日施行を踏まえて、いま自院で点検しておきたいポイントを整理します。
- 自院が選定療養の「予約に基づく診察」を実施・報告しているかを確認する。報告していなければ、そもそも予約キャンセル料は徴収できない
- 徴収するなら、予約時の事前説明と同意の運用(説明文・同意文書)を整える
- キャンセル料の内容と料金を院内掲示し、HPがあればウェブサイトにも掲載する
- 徴収した場合に区別した領収証を発行できるようにする
- あわせて新設された多言語対応費・システム利用料・Wi-Fi利用料を徴収する場合も、同じく掲示・同意・領収証の手続きが必要
特に「予約制だから取れる」と誤解したまま運用を始めてしまうと、根拠のない費用徴収になりかねません。選定療養の報告の有無を起点に、掲示・同意・領収証まで一気通貫でそろえておくのが安全です。掲示の内容と院内・Webの整合は、適時調査や個別指導でも確認される論点です(適時調査・個別指導・医療監視の違い|医療機関が受ける3つの調査を比較)。
まとめ
- 2026年6月1日から、予約に基づく診察の患者都合キャンセル料などが実費徴収できる項目に追加された(保医発0327第7号)
- ただし徴収できるのは選定療養の「予約に基づく診察」を実施・報告している医療機関に限られる。無料予約だけの医院は対象外
- 厚生労働省は5月29日の疑義解釈で「選定療養の予約診察に限る」と念押しした。「保険診療でキャンセル料解禁」という理解は不正確
- 徴収の対象は患者都合・診察日直前のキャンセルのみ。予約時の事前説明と同意が前提
- 徴収するなら院内掲示(+原則Web掲載)・文書による同意・区別した領収証の3点が必須
掲示物の管理に時間を取られるのは、医療の本質ではありません。とはいえ、新しく実費徴収を始めるなら、報告・院内掲示・Web掲示の内容をそろえておくことが、後の調査・指導で足をすくわれないための近道です。施行直後のいまこそ、自院の届出・報告を起点に掲示まで整えておきましょう。
出典・参考
一次資料(厚生労働省・法令)
- 「療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いについて」の一部改正について(保医発0327第7号、令和8年3月27日、令和8年6月1日実施) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001707281.pdf
- 療養の給付と直接関係ないサービス等の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(令和8年5月29日 保険局医療課事務連絡) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001706045.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」(告示・通知・疑義解釈の一覧) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
二次資料(参考)
- 長野県保険医協会「予約のキャンセル料は選定療養に限ると厚労省が訂正通知」 https://nagano-hok.com/shaho/19212.html




