【令和8年7月8日】薬剤師の調剤応需義務を再整理|カスハラで調剤を断れる場合

令和8年7月8日、厚生労働省医薬局長から「薬剤師の調剤応需義務等について」(医薬発0708第1号)という通知が出ました。薬剤師法第21条の調剤応需義務について、どういう場合なら調剤の求めを断ってよいのかを整理し直したものです。
これまで現場のよりどころになっていたのは平成5年の薬局業務運営ガイドラインなどでしたが、この通知は今後は自分が基本になる、と明言しています。しかも背景に置かれているのがカスタマーハラスメントです。
10月1日には改正労働施策総合推進法でカスハラ対策が事業主の義務になります。薬局にとっては、この2つがひと続きの話になります。
何が変わったのか
通知は、従来の行政解釈をこう振り返っています。
従来の行政解釈では、正当な理由の範囲について、処方箋の内容に疑義があるが疑義照会できない場合、冠婚葬祭や急病等で薬剤師が不在の場合、早急に調剤薬を交付する必要があるが、医薬品の調達に時間を要する場合、災害や事故等により、物理的に調剤が不可能な場合のように、調剤の求めを拒否することが不当ではないような場合に限定されてきた。
つまり、断れるのは「物理的に無理なとき」にほぼ限られていました。そのうえで、こう続きます。
他方で、近年の社会情勢の変化や、深刻化するカスタマーハラスメントの問題に関連し、現場の薬剤師の業務に際して調剤応需義務に対する解釈について改めて整理の必要性があることが指摘されていた。
厚生労働行政推進調査事業費補助金による研究の報告書を踏まえた整理、という位置づけです。
そして過去の通知との関係について、こう書かれています。
なお、過去に発出された調剤応需義務に係る通知等において示された行政解釈と本通知の関係については、(中略)今後は、基本的に本通知が妥当するものとする。
手元の運用マニュアルが平成5年のガイドラインを引いているなら、参照先を差し替える必要があります。
応需義務は「国に対する義務」
通知の第1で、法的な性質がはっきり書かれました。
薬剤師法第 21 条に規定する「調剤応需義務」は、薬剤師が国に対して負担する公法上の義務であり、薬剤師の患者に対する私法上の義務ではないこと。
患者に対して直接負う義務ではない、という整理です。
もうひとつ、通知は二階建ての構造を示しています。調剤の求めに応じるかどうか(薬剤師法の話)と、調剤した薬剤を渡してよいかどうか(薬機法の話)は別だ、というものです。
即ち薬剤師法の観点から調剤の求めには応じた場合であっても、適正な使用を確保することができないと認められる場合には、薬剤の提供が薬機法上の「薬剤の販売・授与」に関する義務の観点から当然に禁止される。
「調剤はしても薬剤を渡せない」場面がある、ということです。この点は後半で扱います。
断れる場合、その一:カスハラ以外
通知は、断れる「正当な理由」を2系統に分けています。まずカスハラ以外の類型です。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 物理的・身体的理由 | 病気、近親の不幸、冠婚葬祭等で薬剤師が不在、災害や事故で物理的に調剤不能 |
| 疑義照会が不可能 | 処方医と連絡が取れず疑義が解消されない場合。近隣の患者なら処方箋を預かり後刻照会する |
| 調達に時間を要する | 早急に交付が必要だが、その薬局では調達に時間がかかる場合 |
| 流通管理制度 | メチルフェニデート塩酸塩製剤等で、処方医や薬局が事前登録のリストにない場合 |
| 開局時間外 | 休日夜間の応需体制を講じることとされている薬局以外で、緊急性のない処方箋を断り翌開局時間内を案内する場合 |
| 重複投薬等アラート | 電子処方箋のチェックでアラートが出た、またはお薬手帳で把握して疑義照会したが処方変更されず、なお薬学的知識により客観的に疑わしい場合 |
| 悪意ある未払い | 過去の未払いが継続し再発の蓋然性が極めて高い、被保険者情報の提示を拒否する等 |
ここで見落としたくない釘が刺してあります。
また、処方箋に記載された医薬品がその薬局に備蓄されていないことを理由とした拒否は認められないものであること。
在庫がないことは、それ自体では断る理由になりません。調達に時間を要する場合として断るときも、後始末が求められています。
ただし、この場合は、速やかに調剤が可能な薬局を当該薬局が責任をもって紹介すること。
開局時間外も同じで、当番薬局などを責任をもって紹介することが望ましい、とされています。断って終わりではなく、次にかかれる先まで示すところまでが一連の対応、という整理です。
未払いを理由にする場合にも、歯止めがあります。
ただし、こうした場合も含め、薬剤を提供しないことが患者の生命または身体に重大な影響を及ぼすおそれがあるなど、緊急性が高いと認められる場合には、未払いの状況を勘案し適切な対応を行うものとする。
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断れる場合、その二:カスハラ起因
今回いちばん新しいのがこちらです。判断は2段階で行うとされています。
第一段階は、そもそもカスハラに当たるかどうか。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(中略)に規定する職場におけるカスタマーハラスメントと同様の要件で、「顧客等の言動であって、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害される」行為か否かで判断する。
労働法制のカスハラ定義をそのまま持ってきています。薬局だけの独自基準ではありません。
第二段階は、信頼関係が失われているかどうかです。
薬剤師による調剤の基礎となる患者との信頼関係が、迷惑行為の態様に照らして既に失われていると認められるか否かで判断する。 (例:調剤行為そのものと関係ないクレーム等の迷惑行為が続き、警告書の発出や複数名での説得を行ったにもかかわらず、迷惑行為が継続又は改善されない場合等)
例示に「警告書の発出」「複数名での説得」が出てくるのが実務的です。一度の言い争いで断れる、という話ではなく、対応の積み重ねと、その記録が判断材料になります。
そのうえで、拒否が正当化される大きな判断要素として、患者の行為が5つ挙げられています。暴力・威嚇行為、暴言・人格否定、執拗な謝罪要求・拘束、揚げ足取り・不当な追求、そして明確に刑法上の犯罪行為に該当するような行為です。土下座等の謝罪の強要、数時間に及ぶ居座り、執拗な電話連絡といった具体例も書かれています。
ただし、ここに必ずセットで読むべき但し書きがあります。
ただし、調剤内容や接遇に関する合理的な指摘、説明を求める行為、改善を求める意見など、患者からの要求内容が正当であり、手段・態様も社会通念上相当な範囲にとどまるものは、医療の質向上に資するものであり、当然ながら拒否の理由にはならない。
正当なクレームはカスハラではない、と明記されています。カスハラ指針の側も、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは「いわば正当な申入れ」であるとしていて、方向は同じです。この一文を落として類型だけを職員に共有すると、通知の趣旨と逆の運用になりかねません。
もうひとつ、慎重な留保も置かれています。
なお、信頼関係の喪失の有無の判断にあたって、精神疾患等の背景がある場合には、別途、医療機関や行政等との適切な確認・連携の上での判断が必要な場合もあり得る。
なお通知は、これらの事例はあくまで例示であり、個々の事情を鑑みた総合的な判断が基本だと繰り返しています。チェックリストとして機械的に当てはめるものではありません。
「調剤はしても薬剤を渡せない」場合
通知の第3は、応需義務とは別の枠組みです。薬機法の情報提供・指導の規定などから、適正使用が確保できないと認められる場合には薬剤を渡してはならない、という整理で、3つの例が挙げられています。
挙げられているのは、年齢やアレルギー情報、他の薬剤の使用状況等の情報提供を患者が一切拒否し聞き取りにも一切応じない場合(情報の不提供)、必要な情報提供や薬学的知見に基づく指導を患者が拒む場合(服薬指導の拒否)、そして電子処方箋等の過去の薬剤情報閲覧の同意が得られず、聞き取り調査等を実施してもなお適正使用が確保できないと薬剤師が判断した場合(重複投薬のチェック)の3つです。
いずれも「一切」「なお」という留保が付いていて、少し協力が得られない程度で渡さない、という話ではありません。
10月1日、カスハラ対策が事業主の義務になります
この通知を読むときに一緒に見ておきたいのが、改正労働施策総合推進法です。
カスタマーハラスメント対策は、令和8年10月1日から事業主の義務になります。根拠は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号、令和7年6月11日公布)で、施行期日は令和8年政令第17号で定められました。講ずべき措置の内容は「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年2月26日、令和8年厚生労働省告示第51号)にあり、厚生労働省のリーフレットは10項目を挙げて「事業主は、以下の措置を必ず講じなければなりません」としています。薬局も事業主として対象になります。
今回の通知がカスハラの該当性を労働施策総合推進法の要件で判断するとしているのは、この流れと地続きです。10月に向けて相談窓口や対処方針の整備を進める際に、薬局特有の「では調剤を断ってよいのか」という部分を埋めるのが、この通知だと読めます。
薬局として確認しておきたいこと
まず、運用マニュアルや接遇マニュアルの参照先です。平成5年の薬局業務運営ガイドラインを引いているなら、今回の通知に差し替えます。
次に、断り方の型です。在庫がないことだけを理由に断らない、調達に時間がかかるときは調剤できる薬局を責任をもって紹介する、開局時間外は翌開局時間内の案内と当番薬局の紹介まで行う。ここまでを手順に落としておくと、現場が判断に迷いません。
そして、カスハラ対応の記録です。警告書の発出や複数名での対応が例示に出てくる以上、いつ誰がどう対応したかを残しておくことが、後から「信頼関係が失われていた」と説明する材料になります。あわせて、正当な指摘とカスハラの線引きも職員間で共有しておきます。断れる類型だけが独り歩きすると、通知が否定している方向に運用が振れます。
薬局の窓口対応をめぐっては、

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や

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かかりつけ薬剤師の届出要件・施設基準・掲示義務を令和8年度改定に対応して解説。服薬管理指導料への統合やお薬手帳方式の同意取得もわかりやすくまとめています。
もあわせてご覧ください。掲示物の整備状況は

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まとめ
令和8年7月8日の通知で、薬剤師法第21条の調剤応需義務について、断れる「正当な理由」の考え方が整理し直されました。過去の行政解釈ではなく、今後は基本的にこの通知が妥当します。
応需義務は国に対する公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではないこと。断れる理由はカスハラ以外の類型とカスハラ起因の類型に分けて示されたこと。ただし在庫がないことは理由にならず、断る場合は次にかかれる薬局の紹介まで求められること。そして正当なクレームは拒否の理由にならないこと。この4点が骨格です。
10月1日にはカスハラ対策そのものが事業主の義務になります。窓口の対応方針を見直すなら、いまがちょうどよい時期だと思います。
掲示ナビでは厚生局の届出データをもとに掲示ページを自動生成しているため、届出内容が変われば掲示も自動で追従します。掲示物の管理に時間を取られず、こうした現場の運用に手を回せる状態をつくることが、開発の出発点だったと聞いています。
出典・参考
一次資料(厚生労働省・厚生局・支払基金 等)
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厚生労働省医薬局長「薬剤師の調剤応需義務等について」(令和8年7月8日 医薬発0708第1号) https://www.mhlw.go.jp/content/001720004.pdf
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厚生労働省「新着の通知」(本通知の掲載元。令和8年7月29日掲載) https://www.mhlw.go.jp/hourei/new/tsuchi/newindex.html
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厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」(改正法・政令・告示・リーフレットの一覧) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
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厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年2月26日 令和8年厚生労働省告示第51号) https://www.mhlw.go.jp/content/001662625.pdf
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厚生労働省リーフレット「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます! カスタマーハラスメント対策の義務化」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662576.pdf
二次資料(業界誌・専門サイト)
- 本記事の内容は上記の一次資料に基づいて記述しており、解釈の追加は行っていません。個別の判断は、所管の都道府県薬務主管課や薬剤師会にご確認ください。




