【10月1日から順次】最低賃金が平均1,177円へ|ベースアップ評価料との重なり

令和8年度の地域別最低賃金が10月1日から順次発効しています。全国加重平均は1,177円。前年度の1,121円から56円、5.0%の引き上げです。
最低賃金は労働基準の話なので、診療報酬の通知を追う視界には入りにくいところです。ただ今年は事情が違います。令和8年度改定でベースアップ評価料の賃金改善の実績が「令和8年3月または5月時点の給与体系との差分」で判定される建て付けになり、10月に時給を上げるとその差分に最低賃金対応の引き上げも入ります。10月以降は同じ給与データを2つの目的で見ることになります。
令和8年度の地域別最低賃金と発効日
厚生労働省の「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」から、発効日ごとに改定後の時間額を並べます。
- 10/1:北海道1,131/宮城1,098/栃木1,125/埼玉1,196/千葉1,195/東京1,280/神奈川1,279/新潟1,108/富山1,119/岐阜1,121/愛知1,195/三重1,143/大阪1,231/兵庫1,172/香川1,092
- 10/2:長野1,117/岡山1,104
- 10/3:群馬1,120/石川1,113/滋賀1,136/和歌山1,101/鳥取1,090
- 10/4:福井1,112/奈良1,107/福岡1,114
- 10/8:山口1,101
- 10/10:島根1,092
- 10/11:広島1,141
- 10/14:秋田1,090
- 10/15:静岡1,154
- 10/16:福島1,094
- 10/18:茨城1,136
- 10/24:宮崎1,085
- 10/25:鹿児島1,090
- 10/29:青森1,090/高知1,086
- 10/30:山形1,092
- 11/1:山梨1,113/徳島1,103/愛媛1,093/大分1,096
- 11/2:長崎1,087
- 11/15:佐賀1,095
- 11/16:京都1,180
- 12/1:岩手1,090/熊本1,092
- 12/2:沖縄1,086
発効日が都道府県ごとに違います。10月1日に発効するのは15県で、岩手と熊本は12月1日、沖縄は12月2日と2か月の差があります。
自県の発効日を過ぎてから対応すると、発効日以降の労働について差額を払うことになります。最低賃金法第4条第2項は、最低賃金額に達しない賃金を定めた労働契約はその部分が無効になり、最低賃金と同じ定めをしたものとみなすと規定しています。労使の合意があっても無効で、罰則は50万円以下の罰金(同法第40条)です。
時給の判定に使えない手当がある
時給が新しい額を上回っているかを確認するとき、支給額の全部を分子に置くことはできません。最低賃金法第4条第3項が一定の賃金を「算入しない」と定めており、施行規則第1条で具体化されているのは次の3つです。
- 臨時に支払われる賃金、および1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(第1項)
- 所定労働時間を超える時間、および所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(第2項第1号・第2号)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(第2項第3号)
賞与や時間外手当、夜勤の深夜割増部分は分子に入りません。加えて法第4条第3項第3号は「当該最低賃金において算入しないことを定める賃金」も算入しないとしており、自県で何が指定されているかは後述する周知事項に含まれています(施行規則第6条第2号)。
月給の職員は時間額への換算が必要です。施行規則第2条第1項第3号は、月によって定められた賃金は「その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異なる場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額」とします。月ごとに所定労働時間が変わる職場では、ある月だけを取って割るのではなく年間平均で割るのが条文どおりです。
ベースアップ評価料の賃金改善と、どこが重なるか
外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)は初診時17点、再診時等4点、訪問診療時は同一建物居住者等以外の場合79点、イ以外の場合19点(医科点数表 O001)。施設基準は保医発0305第8号の第105です。賃金改善の実績の判定について、同通知はこう書いています。
賃金改善の実績については、当該保険医療機関における「令和8年3月又は5月時点の給与体系(中略)を、当該年度に勤務している職員の賃金に当てはめた場合の基本給等総額」と、「当該評価料を算定した年度に勤務している職員の基本給等総額」との差分により判断すること。
令和8年3月または5月時点の給与体系をいまの職員に当てはめた総額と、今年度の実際の総額を比べ、その差を実績として見るということです。
10月に最低賃金対応で時給を引き上げれば、実際の総額は上がります。この差分方式では、最低賃金対応で上がった分もベースアップ評価料とは無関係に差分を押し上げ、報告書の数字だけ見れば賃金改善が進んでいる形になります。ただし通知は、評価料収入の使途を別に定めています。
当該評価料により得られる収入は、対象職員の基本給又は決まって毎月支払われる手当(以下、「基本給等」という。)の引上げ(以下「ベア等」という。)及びそれに伴う賞与、時間外手当、法定福利費等の増加分に用いること。
収入は基本給等の引き上げとそれに伴う増加分に使う、という縛りです。実績が差分で見えるからといって、別の用途に回していいことにはなりません。さらに「いずれの場合においても、賃金の改善の対象とする項目を特定して行うこと」とされており、どの賃金項目をいくら改善したのかを特定して記録する必要があります。
最低賃金対応の引き上げも、評価料を原資にしたベア等も、同じ「時給」や「基本給」の欄を動かします。項目を特定して記録する要件を満たすには、どちらの理由でいくら上げたのかを給与規程や内部記録で分けておくことになります。報告書の提出は毎年8月なので、動かしたその月のうちに残すほうが確実です。
なお、この通知に最低賃金についての記述はありません。計上の可否についての明文はなく、あるのは上の差分の判定方法と使途の縛りだけです。判断に迷う場合は地方厚生(支)局に確認してください。
夜勤手当の扱いは2つの制度で逆になる
ベースアップ評価料の通知には「恒常的に夜間を含む交替制勤務をとっている職場の職員に支払われる夜勤手当については、決まって毎月支払われる手当に準じて基本給等に含めて差し支えない」とあり、夜勤手当を賃金改善の対象に入れられます。一方、最低賃金では深夜の時間帯の労働に対して支払われる賃金のうち通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分は算入しません。同じ夜勤手当が、ベースアップ評価料では基本給等に含まれ、最低賃金の判定では割増部分が外れます。1つの給与データを2つの目的で見るときに取り違えやすい箇所です。
職員向けの掲示義務がある
最低賃金法には使用者の周知義務の規定もあります。
第八条 最低賃金の適用を受ける使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該最低賃金の概要を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又はその他の方法で、労働者に周知させるための措置をとらなければならない。
掲示すべき「最低賃金の概要」は、施行規則第6条で3項目と決まっています。適用を受ける労働者の範囲とその最低賃金額、法第4条第3項第3号の賃金(その最低賃金で算入しないことが定められている賃金)、効力発生年月日です。違反した場合は30万円以下の罰金(同法第41条第1号)。
患者向けのWeb掲示義務(令和6年の改定で原則義務化された、施設基準等を自院のサイトにも掲載する義務)とは対象が違い、こちらは労働者向けです。点検は別の棚として管理し、改定後は掲示内容も新しい額と発効日に差し替えてください。
10月にやること
- 自県の発効日と改定後の額を確認する
- 時給制の職員は、算入できる賃金だけを分子に置いて新しい額と比べる(賞与・時間外手当・深夜割増は外す)
- 月給制の職員は、施行規則第2条の換算で時間額を出す
- 必要な職員の時給を、発効日以降の労働について新しい額以上にする
- 引き上げた理由(最低賃金対応か、評価料を原資にしたベア等か)を給与規程または内部記録で分けて残す
- 掲示している最低賃金の概要を新しい額と発効日に差し替える
最低賃金の対象職員に例外はありません。常勤・非常勤、職種を問わず、労働基準法第9条の労働者は全員が対象です。ベースアップ評価料は「40歳以上の医師及び歯科医師並びに業務委託により勤務する者を除く」と限定されていますが、最低賃金にこの種の除外はありません。
まとめと次のチェックポイント
- 令和8年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,177円。前年度から56円、5.0%の引き上げで、発効日は10月1日から12月2日まで分散している
- ベースアップ評価料の賃金改善の実績は令和8年3月または5月時点の給与体系との差分で判定される。10月の最低賃金対応もこの差分に入るので、引き上げ理由を分けて記録する
次のチェックポイントは

【令和8年8月提出】ベースアップ評価料の賃金改善報告、8月に出すのは何本か|施設パターン別ガイド
ベースアップ評価料には「毎年8月に賃金改善を報告する」施設基準の要件がある。令和8年8月に出すのは実績報告書と中間報告書の2種類。継続機関は2本、新規算定や調剤ベースアップ対象の薬局は中間報告のみ——施設パターン別に一次資料で整理。
です。提出は毎年8月ですが、10月に動かした賃金はその報告に乗ります。制度の全体像は

ベースアップ評価料とは?2026年6月改定後の点数・施設基準・院内掲示をわかりやすく解説
ベースアップ評価料は2026年6月改定で点数が最大3倍に拡充。現に算定中の医療機関も6/1までの再届出が必要です。点数表・施設基準・院内掲示のポイントを実務目線で整理。
、施設基準は

外来・在宅ベースアップ評価料の施設基準と届出方法を解説
外来・在宅ベースアップ評価料の点数(初診17点・再診4点)、評価料(Ⅰ)(Ⅱ)の違い、施設基準、届出方法を解説。掲示義務は不要ですが、職員への周知義務があります。R8改定での大幅増点についてもまとめました。
と

入院ベースアップ評価料の施設基準と届出方法を解説
入院ベースアップ評価料の点数(区分1〜500)、施設基準、外来・在宅ベースアップ評価料との違いを解説。前提条件として外来・在宅(Ⅰ)の届出が必要。掲示義務と届出方法をまとめました。
に分けて整理しています。運用の疑問は

ベースアップ評価料の運用Q&A|新設手当への充当・算定期間・事務職員の範囲(疑義解釈その7)
疑義解釈(その7)別添2のベースアップ評価料Q&A(問1〜7)を解説。届出は施設ごと、新設手当への充当、算定期間と賃金改善期間、「事務職員」の範囲、届出方法までを一次資料に沿って整理します。
が参考になります。
労務側では
ストレスチェック義務化、2028年度から労働者50人未満の事業所も対象に — 小規模クリニック・薬局・歯科の準備ガイド
2025 年 5 月公布の改正労働安全衛生法(令和 7 年法律第 33 号)で、ストレスチェック実施義務が労働者 50 人未満の事業場にも拡大されます。施行日は 2028 年 4 月 1 日となる方針(公布後 3 年以内の政令委任、労働政策審議会 2026 年 5 月 18 日提示、政令公布は今後)、初回完了期限は 2029 年 3 月 31 日。小規模医科診療所・歯科診療所・薬局のほとんどが新規対象です。厚労省が 2026 年 2 月に公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」のポイント、地域産業保健センターの無料支援、業態別の対象判定、いま動ける準備ステップを実務目線で整理します。
が2028年度に控えています。患者向けの掲示事項は

厚生労働大臣が定める掲示事項とは?医科・歯科・薬局別に全項目を解説
厚生労働大臣が定める掲示事項の全体像を医科・歯科・薬局別に解説。令和6年度改定でウェブサイト掲載が義務化された背景や、対応していない場合のリスクについても説明します。
にまとめています。
出典・参考
一次資料
令和8年度地域別最低賃金全国一覧(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001753404.pdf
地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
最低賃金法(昭和34年法律第137号) https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000137
最低賃金法施行規則(昭和34年労働省令第16号) https://laws.e-gov.go.jp/law/334M50002000016
特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(令和8年3月5日保医発0305第8号) https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/000456075.pdf
診療報酬の算定方法 別表第一(医科診療報酬点数表) https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686842.pdf
二次資料
最低賃金制度とは(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43880.html
地域別最低賃金の改定(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/chiikibetu_00002.html



